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2017-12-05 05:07

制裁強化は「臨検と海上封鎖」しかあるまい

杉浦 正章  政治評論家
 米国は北朝鮮に対して「経済制裁以上で武力行使未満」の行動を取ろうとしていると言われるが、その内容はどのようなケースが考えられるのだろうか。米国が9月に国連に提出した制裁決議案には、公海での臨検を主張する事項が盛り込まれていた。おそらくトランプの脳裏には「臨検」を伴う「海上封鎖」が去来しているのではないか。平和時に行う最強の制裁措置である。対北圧力を極限まで高めるには有効な手段であり、今後年末から来春にかけて動きが生ずるかも知れない。米韓両軍は4日から合同演習に入った。北朝鮮報道官はこれをとらえて、例によって悪態の限りを尽くして“口撃”している。「一触即発の朝鮮半島を暴発へと追い込もうとしている。朝鮮半島と全世界が核戦争のるつぼに巻き込まれた場合、その責任は米国が負うべきだ」といった具合だ。しかし、北の核・ミサイル実験と米韓軍事演習は、根源となる目標が全く異なる。北は水爆実験に際して「水爆の爆音は、ふぐ戴天の敵米国の崩壊を宣告した雷鳴であり、祝砲だ」として、およそ1年ぶりに強行したと称賛、そのうえで、「下手な動きを見せれば、地球上から米国を永遠に消し去るというわれわれの意志だ」と言明している。実験が米国を壊滅させるための手段であることを明言しているのだ。これに対して米国が軍事演習をするのは、国家生存をかけた当然の防御措置であり、国際法上も何ら問題はない。

 この立場の違いに関して中露は「けんか両成敗」の立場を維持している。中国外相王毅は、北を国連の安全保障理事会の決議を無視していると批判する一方で、安保理決議以外の行動は国際法上の根拠がないとして、米国を念頭に単独での制裁の強化や軍事力の行使に反対した。ロシア外相ラブロフも、平壌の核・ミサイル開発の火遊びを非難する一方で、「米国の挑発的行動も非難しないわけにはいかない」と指摘している。まさに中露一体となって米国をけん制している感じが濃厚だ。こうした中で米国は着々と対北制裁案の強化策を検討している。ウオールストリートジャーナル紙が伝えるその内容は、(1)北朝鮮からの核攻撃を抑止するため、韓国に戦術核兵器を再配備する、(2)地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(サード)」を韓国に追加配備する、(3)米国と韓国は共同で、脱北を促すような取り組みを広げるーなどである。

 さらに米政府が検討しているのが「臨検」を伴う「海上封鎖」だ。臨検とは、交戦国の軍艦が、特定の国籍の船ないし出入りする船に対し、公海上で強制的に立ち入り、警察・経済・軍事活動することを指す。米国の立場は、9月に国連安保理事国に提示した北朝鮮に対する追加制裁決議案を見れば明白だ。同決議案は石油の全面禁輸などに加えて、公海での臨検を許可する事項も盛り込まれている。公海上で制裁指定された船舶を臨検する際には「あらゆる措置を用いる権限」を与えると明記し、全ての加盟国に対し、公海において制裁委員会が指定した貨物船を阻止し、調査する権限を与える。加えて、「全ての加盟国がそのような調査を実施し適切な港に寄港させるなど指示し、国際人道法および国際人権法を順守する範囲で必要とされるあらゆる措置を用いる権限を持つことを決定する」となっている。海上封鎖と言えば武力行使と受け取られがちだが国際法上は戦時封鎖と平時封鎖に分類される。戦時封鎖の場合は機雷などによる封鎖が想定されるが、平時封鎖は非軍事的措置の一環とみなされ、海軍による臨検が主となる。しかし、封鎖を突破しようとする船舶が現れた場合には攻撃もあり得る。

 こうした緊迫した情勢の中で米韓合同の軍事訓練「ビジラント・エース」には、対北戦争を想定した具体的な作戦がこれまでになく明確に織り込まれている。まず、F22やF35によって北国内のミサイル基地や関連施設など700個所の目標を一気に破壊する。さらに北の空軍戦力を3日で無力化させる事などが含まれている。北側は金正恩が火星15号の試射について「国家核戦力の歴史的大業を成し遂げた」と胸を張ったが、実験は事実上失敗との見方が強い。米CNNテレビは2日、北朝鮮による火星15号の発射の弾頭部が、大気圏に再突入する際に分解していたと報じている。この分析によれば、米本土攻撃能力の獲得に不可欠な大気圏再突入技術が、まだ確立されていないことになる。こうして北は「空白の75日」を破って、再び核・ミサイル実験を繰り返す兆候を示し始めた。次回は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験となる可能性が高い。焦点の中国による石油供給は依然として継続され、ロシアも交易のペースを変化させていない。極東冷戦の構図は再び、緊張段階に入り越年はもちろん長期化する様相だ。
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