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2017-11-22 06:52

米国による北へのテロ国家再指定で対中圧力

杉浦 正章  政治評論家
 核・ミサイル実験の準備を続ける北朝鮮に対して米トランプ政権が最終的外交戦略の火蓋を切った。北がもっとも“痛み”を感ずる「テロ支援国家」再指定は、行き詰まり状況を打破するための切り札であり、包囲網の輪はひしひしと金正恩に向かって狭まりつつある。加えて中国に対して“行動”を迫るものでもある。北との取り引きを続ける中国企業193社に対して取引中止の圧力をかける。一見、国連制裁決議と重複するように見えるテロ国家再指定だが、米国はこれをテコに北と外交関係がある160か国に対して協力を要求する。多くの国は、北をとるか米国をとるかの選択を迫られ、最終的には米国に同調するだろう。米朝緊迫化は避けられない方向だ。

 政府筋によれば、トランプはさきのアジア歴訪の際に首相・安倍晋三には早期再指定の方針を伝え、安倍もこれを了承したという。各国首脳に先だって安倍が「圧力を強化するものとして歓迎し支持する」と表明したのは当然である。そもそも再指定はトランプが就任早々から考えていた問題である。昨年12月の安倍トランプ会談で安倍が極東情勢を説明した中で、キーポイントとして指摘したとみられている。米国は1988年に大韓航空機爆破事件を契機にテロ支援国家に指定。ブッシュ政権が2008年に核計画の断念との取り引きで解除したが、北は核・ミサイル開発を再開して、完全にだまされた結果となった。ならず者国家を信用する方がおかしいのだ。過去において北のテロはやり放題の状況であった。日本人の拉致はまさにテロ行為であり、2月の金正男の殺害、北に拘束された米国人留学生の事実上の“殺害”など枚挙にいとまがない。トランプはアジア歴訪から帰国して再指定を実行に移す段取りであったが、習近平が共産党対外連絡部長宋濤を特使として北に派遣したことから、いったん様子見となった。トランプは「大きな動きだ」と歓迎する発言をしている。しかし20日に帰国した宋濤は、結局金正恩に会えずに終わり、中国による対北圧力の限界を見せた。その直後の再指定であった。

 問題は、再指定で何が制裁対象になるかだが、ホワイトハウスのブリーフでは武器禁輸、経済援助の禁止、金融取引の規制などの措置が取られる。これは国連決議ともダブる。しかし再指定は各国を動かすテコの役割を果たす。米国が主導して今後各国への働きかけが行われる。米国のメンツに関わる問題であり、その外交力をフルに発揮することになるだろう。とりわけ北を野放図にのさばらせてきたのは中国であり、中国を制御しなければ北問題は解決しないと言ってよい。どう取りかかるかだが、米国は北との取り引きがある193社の中国企業のリストを保有しており、これらの企業の対米取り引きに対して事実上禁止につながる制裁を科して行くものとみられる。国務長官ティラーソンはテロ支援国家指定の意義について「北朝鮮や関係者にさらなる制裁と懲罰をかけることになるし、北と関わろうとする第3国の活動を途絶えさせる結果を招く」と語っている。

 トランプは訪中で2500億ドル(28兆円)の「商談」を習近平からもらって、目くらまし状態となって北問題を詰めないままに終わった。しかし、今回の制裁は北との貿易の9割を占める中国を狙ったものと言えるだろう。習近平は対米貿易を“人質”にとられた形となる。もともと金正恩を嫌悪している習近平は特使派遣が空振りに終わってよほど頭にきたとみえて、中国国際航空の北京ー平壌便の運行を停止する措置に出るようだ。北京と平壌を結ぶのは高麗航空だけとなる。また、軍事面でも効果はなくはない。テロ支援国家再指定は国家が他の国家を経済的に束縛することになるが、その禁を破る行為に対しては、米国が先制攻撃を北に対して断行する口実となり得るからだ。ただでさえ年末年始にかけて北朝鮮は国連制裁が利きだして行き詰まるという見方が強かったが、今回のトランプの“本気度”は相当なものがあり、ダメ押しの制裁となる。金正恩は暴発に出るか、制裁に屈するかの二者択一を迫られることは確かだ。
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