国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-11-20 19:36

(連載1)変容するユーラシア国際環境と日本の対応

渡邊 啓貴  東京外国語大学教授
 ユーラシアの国際環境は、冷戦期、そしてポスト冷戦期を経て、現在、新たな段階へと変容しつつありますが、その本質を理解するには地政学的視点が不可欠です。今日、「地政学」という言葉は、政治的勢力圏競争という意味で使われることが多いですが、私としては、「各々の地域パワーから見たその地域中心の地図の読み方」といった捉え方をしたいと思います。そうした観点から以下では、中国から見たユーラシア、ロシア、中央アジアおよびコーカサスからみたユーラシア、EUからみたユーラシア、についてそれぞれ考えてみたいと思います。

 ただしその前に、一点だけ押さえておきたいことがあります。それは、現在のユーラシアで進行している国際環境変容の背景には、この地域における米国の影響力の後退が大いに関係している、ということです。米国は、1990年代には中央アジア地域に軍事基地を設置し、同地域内外への政治的・軍事的影響力を確保していましたが、2001年の9・11事件以降、とくにアフガン戦争以降、この地域をめぐる米国の政策はアフガン問題に終始してしまっています。このユーラシア中心部における米国の影響力の後退という点を話の前提に置きたいと思います。

 では、まず中国からみたユーラシアです。近年、中国の国際的影響力は飛躍的に拡大していますが、この背景には、中国自身の「グローバル・ガバナンスの担い手になりたい」という意思がみられます。その台頭のスタイルは、習近平政権が推進する「一帯一路」構想に象徴的に示されています。「一帯一路」は、「経済圏」構想というよりも、「勢力圏拡大」構想として捉えられます。しかし、その実態は漠然としており、綿密な計画というわけではなく、果たしてどれほど実現性を持つものかも定かではありません。他方、中国が提唱する陸と海のシルクロードに関連して、最近では、地球温暖化の結果、年間を通じて航行可能となった北極海航路に中国の関心が高まっています。この航路開通によって、従来型のユーラシアにおける地政学的な発想は転換を迫られていますが、この新たな地政学的状況において、中国は、この航路を「5+1のコネクティビティ(政策面での意思疎通、交通輸送網・通信網形成、貿易の円滑化、資金融通と通貨流通の強化、相互理解の深化+宇宙・サイバー・海洋)」の強化を通じたユーラシア全体での影響力拡大の意図と結びつけています。

 次に、ロシア、中央アジアおよびコーカサスから見たユーラシアです。1990年代からロシアでは、地政学に関する書物が出版され、ロシアから見た国際情勢分析のツールとして受け入れられるようになりました。ロシアの対外姿勢の特徴としては、(1)ロシアの立ち位置は、西洋とも東洋とも異質であるであること、(2)歴史的パターンとして危機の時代の領土・勢力圏の縮小、その後の再拡張のくり返しがみられること、(3)経済よりも安全保障重視、外交手腕と軍事力による大国化の傾向が顕著であること、などです。そのなかでロシアは、リアリズムに依拠した対中関係を構築しており、例えばロシアの対中関係は対米欧関係の従属変数であるといえます。とくに2014年のウクライナ危機以降、対米欧関係が悪化していく中でロシアの米欧イメージの悪化と反比例して、対中イメージが好転しています。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム