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2017-11-04 13:26

(連載2)「脱炭素社会」構築に向けた提言

廣野 良吉  成蹊大学名誉教授
 目を国際社会に向けると、昨年11月に公表された国際エネルギー機関(IEA)の2016年報告も、今回のUNEPが公表したGAP2017と同様に、産業革命以降の地球上の平均気温上昇を1.5度どころか2度に安定化させるという目標達成は不可能であると指摘している。さらに、パリ条約での目標達成のためには、2040年までに再生可能エネルギー普及に向けて75兆ドル(約8,200兆円)の投資が必要と訴えている。昨年のマラケシュでのCOP22では、2018年までにすべての締約国で自主削減目標達成のための詳細なルールを導入することと、2017年には先進国からの地球温暖化対策への対途上国支援額年間1,000億ドルの引き上げについての議論を始めることを決めた。なお、各国の長期的な自主的削減目標の見直しの検討を始める必要性についても、小規模島嶼国を含めていくつかの国々から発言があった。今月6日に開幕するCOP23では、特にGHG大量排出国である米国(パリ条約離脱を宣言したが、正式に離脱は未発効)や日本を含めた先進諸国と中国やインドでは、現在よりも一層高い削減目標の設定が不可欠となることが想定される。ちなみに、IEAによると、2040年の世界全体のエネルギー構成(メインシナリオ)でも、一次エネルギー総需要量に対する化石燃料依存度は相変わらず74%(石炭23%、石油27%、天然ガス24%)に高止まり、再生可能エネルギーはわずかに20%、原子力が7%である。

 上記の現状認識にたって、我が国はまず第一に、パリ条約の実効を期すため2018年までに詳細なルールの設定をするという国際的な目標の貫徹のために、UNFCCC作業部会の討議には積極的に参加し、パリ条約の基礎となっている総ての締約国による2020年以降の世界的なGHG削減目標の履行・達成へ向けて指導力を発揮することが望まれる。具体的には、GHG排出量が大きい締約国が自発的に設定している2025年、2030年、2040年、2050年のGHG削減目標を、それぞれ国際的に合意できる範囲内で前倒しするよう訴えると共に、2050-70年期間内にGHG削減ネットゼロ目標設定を全締約国に義務づけ、さらに2020年以降の削減目標の毎年の達成状況の検証を全締約国へ義務付け、目標未達成国には、何らかの国際的措置を講ずるルールを策定するよう、全締約国へ働きかける。なお、地球温暖化対策として既に合意された先進諸国による対途上国支援額年間1,000億ドルの引き上げ交渉が本年に始まったが、この面でも日本が積極的に貢献すると共に、途上国が自国の税制改革、財政支出の適正化、ガバナンスの改善等を通じて、国内資金の動員・配分に一層の努力するよう働きかける。なお、この一環として、我が国が途上国のGHG排出やその削減等に対して科学的に対処するために、その測定方式や従事する専門家の能力育成等制度化のために、我が国の知識・経験の共有を図るという支援の拡大を歓迎したい。

 日本政府が国際社会、特にCOP23以降の国際交渉において指導力を発揮するためには、わが国が目指す脱炭素社会構築のための長期戦略を2017年5月のUNFCCC作業部会第1回会合までに策定し、必要な法制化・制度化・予算化で国会承認を予め得ることが大前提となる。脱炭素社会構築長期戦略の内容については、「地球・人間環境フォーラム」による「人間と地球のための持続可能な経済研究会」が脱炭素長期発展戦略(長期ビジョン)作成へ向けて昨年11月に公表した「脱炭素で持続可能な社会の構築:15の提言」(グロ-バルネット2016年11月号参照)を初めとする多くの提言活動が現在活発化しているが、以下小生の個人的提言を述べたい。

 我が国は、世界の大多数の先進諸国、新興国、途上国の国内批准で昨年11月4日に発効したパリ協定の基本的合意が、今世紀後半の出来るだけ早い時期での脱炭素社会(ネットゼロ炭素排出社会)の構築であることを深く認識して、後述するように、現行の我が国のエネルギー政策、産業政策、持続可能な社会発展政策、開発協力政策を根本から見直すことが急務である。我が国は国際社会の責任ある国家として、かかる脱炭素社会構築へ決意を以て着実に踏み切ることにより、一昨年9月国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs2016-30)」の早期達成への努力と相まって、人権、平和、繁栄、自立・共助、公正、自然環境、文化的多様性を基本的理念とする持続可能な国際社会の構築に積極的に貢献しなければならない。その一環として、今月5日に来日するトランプ米国大統領に対して、安倍総理からパリ条約への復帰へ、地球温暖化問題に関心が深いイバンカ大統領補佐官と共に、直接訴えてほしい。(つづく)
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