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2017-09-23 00:04

(連載2)北朝鮮問題と駝鳥の平和論

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 さて日本の対応であるが、インターネット上での反応を見る限り、メルケル発言への支持が圧倒的に多い。ドイツの首相ではなく日本の首相があの発言をすべきだった、との見解も少なくない。北朝鮮の核開発や事実上それを容認する中国、ロシアの対応に対して最も危機感を抱くべきなのは我々日本人であろう。では、わが国の国会で与野党がこの問題を真剣に議論しているだろうか。実際に討議されているのは、安全保障の現実を無視した観念的な憲法論議や、森友・加計問題など権力闘争絡みの国内政局が中心で、今日の世界全体が直面している国際危機をリアルに認識して、わが国がそれにどう対応するかについては、ほとんど議論されていない。安保法制に対する国会やメディア上での議論が、国際常識から如何に離れているか、という認識も我々はほとんど有していない。つまり、わが国の多くの国民や政治家たちは、世界の現実の動きやそれがもたらす危機には目をつむっている。

 26年も前の湾岸戦争の後、村上兵衛氏(1923-2003)が、日本人の平和・戦争観について次のような辛辣な言葉を述べている。巷間、戦後の日本は戦争を放棄したと、と言われる。無論それはウソである。日本人は戦争も平和も、ともに「考えること」自体を放棄して、今日まで来たのである。戦後の日本の「平和思想」あるいは「平和主義」が、いかに軽薄かつ詐欺に充ちたものであったか……(今日の日本人の)近・現代史に対する無知、無関心は驚くべきものである。平和を、戦争との相関において考えようとしない知的な怠惰……。過去の歴史はおろか、現代世界に生起しつつある「戦争と平和」について、その一切に目をつぶって来た。日本人は「駝鳥の平和(砂に頭だけを突っ込んで目を塞ぐ)」を生きて来た。日本人は自分自身をダマす天才である。(『This is 読売』 1991年4月号)

 村上氏は22歳のとき陸軍中尉で敗戦を迎え、戦後東大ドイツ文学科を出た作家、評論家である。彼の言葉は、今日の北朝鮮の核問題、中国やロシアの軍事拡張に直面する現在のわが国に対しても、ほぼそのまま言えるのではないか。近年は安全保障問題に多少関心が高まっているとはいえ、森友・加計問題、自衛隊「日報」問題などよりも真剣に、野党が北朝鮮危機や中国問題に関して関心を持ち、与党に政策論議を挑んでいるとは到底思えない。政権側には確かに深刻な諸問題は存在する。しかし、野党の観点からすると、日本国民にとって、北朝鮮、中国などの強硬政策より、今の日本政府の方がはるかに危険なのだろうか。(おわり)
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