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2017-09-12 11:26

制御不能の核拡散の悪夢

鍋嶋 敬三  評論家
 北朝鮮による第6回核実験を受けて国連安全保障理事会が12日朝(日本時間)、新たな制裁決議を全会一致で採択した。米国の原案にあった原油供給の全面禁止などは中国やロシアの強い反対で盛り込まれず、骨抜きになった。中露の拒否権を回避するための妥協の結果だが、北朝鮮にとって決定的な打撃にはほど遠い。原油の禁輸について中国は「市民生活への影響が大きい」と反対したが、だからこそ有効な制裁措置だったのである。国際社会の総意として「全会一致」に主眼が置かれた結果、「最も強い制裁」を目指した米案から大幅に後退した。

 北朝鮮は制裁をけん制して採択直前に「制裁決議にふさわしい代価を支払わせる」「強力な措置を連続して取る」と異例の声明を発表しており、大陸間弾道弾(ICBM)や潜水艦発射弾道弾(SLBM)の発射などの対抗措置に出るだろう。米国防情報当局は、北朝鮮が早ければ来年(2018年)中に核弾頭搭載のICBMの生産に入るとの結論に達したとされる。予想を上回る技術的進展に国際社会は手詰まり感に覆われている。中国やロシアが強力な制裁決議に対して足を引っ張り、有効な制裁が実施できない。過去の制裁決議も完全に実施されていないのが実情だ。安保理決議とは別個に米国、日本、韓国や欧州連合(EU)も巻き込んだ独自制裁を進めることが必要である。

 しびれを切らせた米国内に北朝鮮に対する先制攻撃論が出ている。その代表格がJ.ボルトン元国連大使だ。ルーズベルト大統領が1941年9月11日の炉端談話で「ガラガラヘビが襲って来るのを見たら、襲われるまで待っていないだろう」と語り、ナチス・ドイツ海軍に対する先制攻撃を許可した故事を紹介した。同氏は「ルーズベルトが語ったその時点に我々は急速に近づいている。今や先制攻撃の時だ」と主張した。ボルトン氏は先制攻撃に代わるものは核兵器の全面的拡散だとまで言うのだが、先制攻撃は全面戦争に直結しかねない。トランプ大統領の勇ましいツイッターとは別に政権内の現実派であるティラーソン国務長官、マチス国防長官は外交による解決を呼び掛けている。北朝鮮が核とミサイルの実験中止の意思表示をすれば、交渉の入り口になるという考え方である。

 核弾頭付きICBMが米本土のワシントンに到達する能力を確立する前に開発の「凍結」を目指すというのが米国の識者の中で有力な意見になってきている。ここでも北朝鮮の後ろ盾になっている中国の存在が大きい。中国抜きで朝鮮半島の平和と安定が保証されないことも事実である。ロンドン大学キングス・カレッジのK.ブラウン教授は「核・ミサイルを装備した北朝鮮が世界の大国を目指す中国にとってよいことはひとつもない。際限ない挑発と瀬戸際政策に手がつけられなくなったら、重大な結果を被るものの中に中国もいる」として「北朝鮮に決定的なてこを持つ中国の強い対応」を促した。国連安保理で拒否権を持つ常任理事国はイスラエル、インド、パキスタンなどの核保有を容認してきた。核不拡散体制のほころびは北朝鮮の核開発で余すところなく示されている。次に待っているのは「イスラム国(IS)」など非国家主体への核拡散というコントロール不能の悪夢である。
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