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2017-07-09 02:14

第一歩から躓いた共同経済活動

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 昨年12月に日露首脳会談が日本で実施され、北方領土における共同経済活動と元島民等の島の訪問をやり易くすることに関する合意が、この会談の最重要の成果の如く発表された。しかし、今年4月の首脳会談で決まった共同経済活動のための合同調査も、当初は「5月にも官民合同の調査団を北方領土に派遣することで両首脳は一致」と報じられたが、ロシア側が「船の準備など調整が間に合わなかった」と述べて延期された。その後5月末に長谷川首相補佐官をトップに、民間企業関係者らも参加した調査団が、北方領土ではなくまず知事らと協議するためとしてサハリンに向かった。結局4島への69名からなる合同調査団は6月27日に出発した。7月1日までの5日間合同調査は行われている予定だ(6月30日現在)。

 しかし、北方4島での共同経済活動の実現に最も強い熱意を抱き、そのための近隣諸都市のまとめ役もしていた長谷川俊輔根室市長は、ロシア側が受け入れを拒否し、市長は26日に記者会見で、「このような結果となったことは非常に残念だ」と遺憾の意を表明した。はたしてロシアは本気で首脳間の合意を実施するつもりがあるのか。拒否された理由は明らかにされていないが、市長が北方領土問題に関してロシアに批判的な発言をしているためとも言われる。もしこれが真実なら、日本政府が北方領土問題でロシアを公式的に批判している時、市長が同様の発言をしたとの理由で調査団参加を拒否するのはまったくナンセンスだ。6月28日には根室市議会は抗議文を採択し、市議会議長らが外務省を訪問し、毛利忠敦ロシア課長に対し抗議文を手渡した。根室などの地元は、衰退している地域の活性化のために共同経済活動の発展を望んでいる。それゆえ、根室市などの立場を無視し、大企業や地域以外の企業、組織が中心となる活動は容認できないからだ。さらに、当初、日本側が視察を希望していた地熱発電所や魚の養殖場の建設予定地に関しては、ロシアの軍事施設が近くにあるため、ロシア国防省が禁止したと報じられている。

 元島民等の飛行機による訪問も、6月18日に元島民たちがチャーター便で国後、択捉島を訪問する予定となった。18日には、政府関係者や元島民など約70名が中標津空港に集合したが、天候悪化の理由で19日に延期され、それもやはり濃霧が理由で今回は結局中止となった。政府は、夏から秋にかけての天候が落ち着いた時期に訪問を実現すべく、ロシア側と再交渉する予定だと報じられている。またロシア側は、一回のチャーター便を認めただけで、その後に関してはこれも新たな交渉が必要だ。平均年齢が81歳を超えた元島民の方々は、全国から中標津空港に無理をして集まった方も多いと思われ、失望感も強いだろう。安倍首相がプーチン大統領に手渡した「元島民の手紙」に関しては、本当に元島民主導の動きだったのかとの疑念も報道されており、元島民たちの中には「政府に利用されている」と感じている者もいるのではなかろうか。

 昨年12月と今年4月の日露首脳会談の「成果」は、北方4島での共同経済活動と、高齢の元島民の飛行機による墓参など、往来の簡易化などであった。しかし、肝心のこの「成果」も、実行の段階で早速いろいろな障害にぶつかり躓いている。その最大の理由は、北方領土問題に対してロシア側が厳しい態度を崩していない、というよりむしろ強めているからだ。共同経済活動も、ロシア側に都合の良い形でのみ実施しようとしているのではないか。何とか北方領土におけるわが国のプレゼンスを強化しようという官邸の意図も理解出来ないわけではない。共同経済活動のための合同調査の結果はまだ公表されていないが、しかし、北方4島における「わが国のプレゼンスを強化」するために、万が一にも「両国の基本的立場を侵さない」という根本原則を無視した形で共同経済活動が行われるならば、すなわちロシアの法律の下でそれが行われるならば、「わが国のプレゼンスを強化」は実際には逆に「ロシアの立場の強化」になるということを忘れるべきではない。
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