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2017-06-13 12:01

中国のモンロー主義を警戒

鍋嶋 敬三  評論家
 シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(IISSシャングリラ対話)は中国による国際秩序の一方的な変更、軍事的圧力の強化に対する警戒心の高まりを示した。米トランプ政権は「航行の自由」作戦を再開、米中間の軍事的緊張が強まっており、東南アジア諸国連合(ASEAN)の米中対決への不安は募る一方だ。6月2日に基調講演をしたオーストラリアのM.ターンブル首相は中国が地域の支配を狙って米国を排除する「現代版モンロー主義(ドクトリン)を押しつける懸念がある」と警告を発した。首相は新興国の急速な台頭が覇権を守ろうとする大国との間で戦争が起きる古代ギリシャの「ツキジデスの罠」に言及し、「現代の中国が国家主権を主張して1949年に建国したように国の大小にかかわらず、他国の主権尊重によって成功する」と中国が歩むべき道を示した。中国のあまりにも身勝手な主権のごり押しに、「親中派」とされる同首相も苦言を呈さざるを得なかった。

 南シナ海での米軍の軍用機、艦船に対する中国軍機の挑発行動はトランプ政権の出方を探る狙いがある。マチス国防長官は同会議の演説で、国際社会の利益を侵し、規範に基づく秩序を損ねる「中国の行動は受け入れられない」と厳しく批判。「戦略的に重要な東シナ海と南シナ海で海洋の自由を守るため米国は関与を続ける」と断言、中国が完敗した国際仲裁裁判所の裁定が紛争の平和的処理のための「出発点」として、拘束力のある裁定に従うよう中国に要求した。中国に対して腰の引けたオバマ前政権とは打って変わる強硬な姿勢である。東南アジア専門家のL.クオク氏(ハーバード大学客員研究員)は「航行の自由」作戦が米国の関与を示す「重要な尺度」として、トランプ政権が作戦再開の意思を示したことで地域の諸国は「ほっと安堵の息をついた」と評価した。

 中国に経済的な依存度が高く、対抗する軍事的能力もない東南アジア諸国は強圧的な中国に抵抗する手立てがない以上、米国しか中国を抑えられる国はないと分かっているからである。中国はカンボジアやラオスなどに圧力をかけてASEANの結束を乱し、南シナ海の軍事化を批判する共同声明が出せないのが現状だ。ASEANのレ・ルオン・ミン事務局長はシャングリラ対話の場で、南シナ海の領土紛争が解決されなければ「平和的解決がもはや不可能になるところまで緊張が高まるだろう」と警鐘を鳴らしている。米中間の競争がうまく処理されなければ「地域の平和と安定に重大な影響を及ぼす」と深刻な懸念を示した。同氏は米中を巡り亀裂が生じているASEANの結束を呼び掛けた。今年、発足50周年を迎えるASEANは米中関係の荒波に翻弄(ほんろう)されている。

 海洋での日中間の緊張も国際的に注目されている。英BBCニュースは空母の形をした海上自衛隊最大級のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が5月に南シナ海で米艦と共同訓練、シンガポールでの国際観艦式に参加、さらにベトナムの要衝カムラン湾に寄港するなど活動を活発化させていることに関連して「日本周辺海域で支配攻勢を強める中国に対する反応」と伝えた。稲田朋美防衛相はシャングリラ対話での演説で東シナ海とリンクする南シナ海への関与を強める発言をしている。稲田氏は「東シナ海と南シナ海では国際規範に反する主張に基づいて現状を変更しようとする正当な理由のない一方的な企てを目の当たりにしている」と中国を批判した。「二つの海」は地球上のどの国にとっても重要な海上交通路であり、国際公共財である。中国による海の独占的支配は米国と同盟国・友邦による影響力を排除してアジア太平洋地域における国際秩序を一変させる重大な事態なのである。
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