国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-06-10 21:30

日本にカジノはいらない

松井 啓  時事評論家、元大使
 昨年12月に「IR(Integrated Resort)(カジノを含む統合型リゾート)」の推進法が成立した。これを受けて、政府は本年4月に有識者会議を立ち上げ、7月に構想の骨格を固めて法整備を進め、来年から場所や開業時期等の検討に入ると報じられている。私は2013年以来本欄に「日本にカジノはいらない」と投稿してきたが、新事態となったので再度カジノ不要を訴える。

 そもそも日本人には、報酬は勤勉に働いた結果によって受けるべしとの労働倫理があり、一攫千金を夢見る賭博は暴力団等の闇の世界のもので、まともな人間が手を染めるべきでないとの意識が強い。電通の調査ではIR反対が45%で、賛成の29%をはるかに上回っている。既に競馬、競輪、競艇は認められているが、地域経済全体の振興に本当に役立っているとは見えない。地方の田畑の真ん中にパチンコ屋が出現し、夜中にネオンが輝いているが、周囲の景観とは全く相いれないものである。厚生労働省の国際比較調査では、日本人にはギャンブル依存症の疑いのある人が多く(536万人、2014年8月21日付朝日、日経)、国内でカジノが開帳されれば、悲劇は更に増えるであろう。政府は内閣府の外局に100名規模の「カジノ管理委員会」設置を検討していくとのことであるが、反対がこれだけ多いのに「世界最高水準のカジノ規制を導入」してまでギャンブルを導入しようとの意図は理解しかねる。またしても利権絡みの話と勘繰られかねない。

 他方、外資は虎視眈々と「日本が最後のフロンティアだ」と期待して、1施設当たり1兆円の投資金を用意し、要員の研修を始めているとのことで、経験と経営ノウハウの乏しい日本では、儲けは外資に吸い上げられる結果となりかねない。いっそのことIRはカジノと切り離してはどうだろうか。カジノを東京、大阪、横浜などの大都市を出発点としてゆくゆくは地方都市にも広げ、地域活性化の起爆剤にしようと目論む自治体もあるようだが、家族連れでも楽しめる総合施設ならば何故カジノが必要なのであろうか。観光資源の乏しいマカオやシンガポールを真似する愚はない。外国人観光客はカジノに閉じこもってギャンブルをするためにわざわざ日本に来るのではない。

 2020年を目標としていた年間訪日外国人数2千万人は2016年で2400万人を突破したため、目標は4千万人に引き上げられた。日本には歴史的伝統的な名所旧跡が沢山あり、季節の変化に富み、地方には里山、海、山脈、北海道の粉雪から沖縄の椰子の木までの自然が広がっている。日本には地方ごとのお祭り、伝統芸能、工芸品、特産食品、日本酒も沢山ある。外国人観光客にはカジノで賭博をするのではなく、日本の地方を廻ってもらって、各地の人たちの「おもてなし」に接し日本の良さを満喫してもらってはどうだろうか。これにより家族連れの観光客やリピーターが更に増え、地方経済の活性化及び延いては日本の「中からの国際化」にもつながるのではないだろうか。6月9日に成立した住宅宿泊事業法による民泊の経済的社会的効果はカジノより大きい。真面目な努力によりオリンピック後も観光客が増加することを期待している。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム