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2017-05-17 06:30

トランプの「露への機密」が政権直撃

杉浦 正章  政治評論家
 トランプ疑惑のキーマンであるFBI長官ジェームズ・コミーの解任は、ワシントンのパンドラの箱を開けた。筆者が「第二のディープスロートが出てきて必ずリークが始まる」と5月12日にウオーターゲート事件との酷似を予言したとおり、早くもリーク第一弾の幕開けとなった。それも数多くのトランプ弾劾理由のトップに躍り出かねないロシアンゲートの超弩級リークでの幕開けである。筆者がウオーターゲート事件の取材でつくづく感じたのは、「リークという米民主主義の健全性」であった。FBI副長官がリーク源であったことが物語るのは、ことが国家のためにならないとなれば、たとえ自分の立場が体制側にあっても、“大統領の犯罪” をマスコミに伝える勇気と義務感が存在することだ。今回のケースは、ニクソンのケースと比べて、桁外れな重大性を帯びる。ニクソンの辞任は選挙で対立する民主党陣営への盗聴、侵入、裁判、もみ消し、司法妨害、証拠隠滅などで、いわば内政マターであった。ところが今回の場合は、米国の安全保障を直撃しかねない問題だ。こともあろうに、アメリカの大統領選挙に対するロシアの干渉疑惑であり、トランプを有利に導くプーチンの陰謀の陰がちらつく、という事態でもある。

 その幕開けとなったリークは、10日のトランプとロシア外相ラブロフの会談の内容だ。9日にコミーを切った血刀が乾く間もなく、国家反逆罪に直結しかねない問題を、トランプはラブロフに伝えてしまったのだ。その内容は、中東でIS と戦う同盟国から提供されたISのテロに関する最高機密で、ISが爆発物をノート型パソコンに仕組んで旅客機に持ち込むという情報だ。トランプはその情報を得られた都市名を具体的に挙げて、その脅威と対応策を語ったといわれる。ISをめぐる情勢は、米欧連合によるISとの戦いに、アサド政権と組んだロシアとISとの戦い、これに反政府勢力とアサドとの戦いが絡んで、複雑に展開している。ロシアに伝わったテロ情報はアサドにも伝わり、ロシアとアサドは情報源を特定し、潰しにかかることも可能だ。つまり情報提供者や諜報員が生命の危機にさらされる可能生すらあるものだ。トランプは当然機密情報だと念を押した上で報告を受けたものだろう。それをトランプは、こともあろうにロシアという潜在的な敵対国に“自慢げ”に知らせてしまったのである。米国と一緒に戦っている英、仏、独など同盟国との関係も毀損しかねない事態であった。

 しかし、さすがに米国である。同席したホワイトハウス高官は、即座にトランプが危険な情報を伝えたと気付き、中央情報局(CIA)と国防総省の諜報機関である国家安全保障局(NSA)に事態を伝達し、善後策をとるように指示している。従って今回のディープスロートがホワイトハウスなのかCIAなのかNSAなのかは不明だ。まさに大統領自身が国家反逆罪に問われかねない展開である。このトランプ発言に対しては、野党民主党が挙げて批判を展開しているのは当然だが、共和党からも批判の声が上がっている。上院外交委員長コーカーはテレビで「政権は悪循環に陥っている。規律が欠如しており、その混乱が厄介な状況をつくり出している」と指摘した。また上院軍事委員長マケインも「驚くべきことだ。本当なら憂慮すべき事態だ」と発言している。問題は、このリークはほんの皮切りであり、今後次々とリークが続くものと予想しなければならないことだ。

 ロシアンゲートは既にFBIがトランプの選挙陣営に対して捜査を行っており、選挙陣営とモスクワの共謀は確実視されている。問題は、トランプ自身がそれを知っていたとすれば、大統領が犯罪を隠匿するという重罪を犯したことになる。また共謀にトランプ自身が加わっていたとすれば、国家反逆罪となり、弾劾の明白なる理由となる。このロシアとの違法な関係に加えて、弾劾に持ち込める理由は、脱税疑惑、事業関連の利害相反、チャリティーの悪用、トランプ大学の違法性など13のケースが挙げられている。弾劾裁判に持ち込む場合には、過去に犯した行為の違法性が一つでも証明されればよいとされており、まさにトランプは、山のように弾劾要因を抱えているハチャメチャ大統領であることになる。 ちなみに合衆国憲法第2章第4条「弾劾」では、 大統領は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪につき弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれるとなっている。弾劾裁判は、下院の過半数の同意に基づき、上院が3分の2の多数で可決した場合にのみ実現する。下院で過半数を得るには民主党議員193人に、共和党議員23人が同調すればよい。今後のキーポイントは来年秋の中間選挙で「トランプ問題」が最大のテーマになる可能性があることだ。民主党はもちろん共和党も、選挙民の支持を得るためには反トランプに回らざるを得ない事態が予想される。従って中間選挙前にトランプ退陣を実現させるかどうかがカギとなる。まだリークは端緒に就いたばかりであり、弾劾が確実視されるまでには時間がかかる。
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