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2017-04-24 11:36

日米関係、「安泰」は早計

鍋嶋 敬三  評論家
 日米関係は「米国第一主義」を掲げ、安全保障と経済の取引(deal)を行動原理とするトランプ米政権の発足で新たな段階を迎えた。安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領との間の親密ぶりを印象付けた首脳会談(2月10日)に続く麻生太郎副総理兼財務相とマイク・ペンス副大統領との日米経済対話(4月18日)で具体的な課題を設定し、動き始めた。しかし、安全保障問題で緊密化が進む一方で、経済関係では環太平洋連携協定(TPP)を離脱し、2国間交渉にこだわる米側との間ですれ違いが早くも露呈した。日米関係の先行きは楽観を許さないことを肝に銘じておくべきである。

 米国の超党派の政策研究グループがちょうど10年前に公表した日米同盟に関する報告書(第2次アーミテージ報告)は、アジアを米国の国益を伸長する「安定した国際関係のカギ」と位置付けた。実際には、中国の急速な軍事力増強、東シナ海、南シナ海での一方的な主権の主張、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展によってアジアは著しく不安定になった。同報告は、この地域で米国が十分な関与を示さなければ、米国の影響力が次第に失われるとの危機感に基づいていた。実際にこの10年間で米国の影響力は中国の進出と反比例して後退した。アーミテージ報告は「東アジアの安定は米、日、中の三角関係にかかる」と分析したが、それは現在でも変わることはない。

 その後、民主党政権(2009年9月~2012年6月)の3年間、定見を欠く政策運営、特に対米、対中外交の失敗が日本外交を迷路に追い込み、国益を大きく損なった。第2次安倍内閣の下で安全保障法制を施行し、防衛、海上保安態勢のてこ入れが始まり、日米同盟が本来の軌道に乗った。しかし、日米同盟関係が安泰と考えるのは早計である。日米首脳会談の直後に公表された米議会調査局の日米関係に関する報告書は「首脳会談の楽観的な雰囲気にもかかわらず、トランプ政権下の日米関係の行方には疑問が残る」と指摘した。首脳会談では「異論のある(貿易や防衛負担などの)問題について解決したわけではない」と分析し、これら懸案が交渉課題として日米関係に影響を与えると予測している。

 4月18日の日米経済対話では、(1)貿易および投資のルール/課題に関する共通戦略、(2)経済および構造政策分野の協力、(3)分野別協力、の3つの政策の柱に沿って構成することで一致した。ペンス副大統領はトランプ政権が求めているのは「自由かつ公平な貿易」であり、そのため「貿易障壁の撤廃や公平な競争条件の整備である」と明確に述べた。麻生副総理は「高いレベルで公正なルールを日米機軸でアジア太平洋地域に広げる」と応じたが、トランプ政権との間ですれ違いが見える。安倍内閣は米国抜きの11カ国によるTPPを再構築したうえで米国の復帰を目指す方針に転換したと伝えられるが、ペンス氏は「TPPは米国にとって過去のもの」とにべもない。さらに日米協議は「2国間の対等な交渉が最善の道だというのが、大統領の見解だ」と言い切った。このようなすれ違いを放置しておくと摩擦から対立へ発展する恐れがある。

 トランプ政権は北朝鮮に対する圧力強化を中国に求めてきたが、ここに来て経済と安全保障の取引が姿を見せつつある。大統領は、選挙戦中に公言していた中国の為替操作国への認定をしなかった。トランプ氏は4月20日、習近平国家主席について「絶対的な信頼」を表明した。北朝鮮は4月21日に「誰かに踊らされて経済制裁に執着するならば、われわれとの関係に及ぼす破局的な結果も覚悟すべきだ」と、名指しを避けながらも中国をこれまでにない強い調子で非難した。日米主導の新たな国連安全保障理事会の決議に中国が賛成したこと、石炭の輸入停止など制裁強化に動き始めたと見られる中国への不満をぶつけたものだ。トランプ流の取引(deal)が奏功し始めたのかもしれないが、副作用も要警戒である。
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