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2007-04-18 18:25

同盟戦略再考迫る北朝鮮の核

鍋嶋敬三  評論家
 米国はマカオの銀行の北朝鮮関連口座の凍結解除を容認した。ブッシュ政権の全面譲歩だが、2月の6カ国協議で合意した北朝鮮の核放棄に向けた「初期段階の措置」の履行期限は4月14日に切れた。合意が実行されていたら、北朝鮮の核施設の稼働停止と封印、国際原子力機関(IAEA)査察官の復帰、重油5万トンの支援へと進められていたはずであった。

 2005年9月の6カ国協議で初めて採択された共同文書で北朝鮮は「すべての核兵器及び既存の核計画の放棄、並びに、核拡散防止条約(NPT)及びIAEA保障措置に早期に復帰することを約束」した。しかし、米政府の金融制裁に反発した北朝鮮が6カ国協議をボイコット、昨年7月には連続ミサイル発射、10月には核実験と軍事的挑発をエスカレートさせた。口座凍結解除で「初期段階の措置」が動き出すか、注意深く北朝鮮の出方を見守る必要がある。「次の段階」には「すべての核兵器の完全な申告」と「すべての既存の核施設の無能力化」がうたわれている。北朝鮮は合意通り核の放棄をするつもりはあるのか。

 米外交問題評議会のセイモア副会長は最近、東京での講演で「北朝鮮の指導者が核を完全に放棄するのはとてもありそうにない」と述べた。彼らが外国からの圧力や脅威から自らを守るには、核抑止力を持つことが不可欠と信じているからだ、とその理由を説明、北朝鮮は核兵器10個弱分のプルトニウムを保有していると推定している。英国の国際戦略研究所(IISS)のチップマン所長は1月、北朝鮮が核を放棄する見通しはほとんどない、との見解を示した。米欧の専門家の認識は共通している。

 ここで問題は米政府の北朝鮮への対応方針だ。ブッシュ大統領は昨年11月、シンガポール演説で「米国の立場は明白だ。北朝鮮による他国や非国家主体への核兵器や核物質の移転は米国への重大な脅威とみなす」と述べた。主要な関心事は核廃棄よりも核不拡散にある、というわけだ。セイモア氏はブッシュ政権が完全な非核化の要求を引っ込め、より控え目の核合意を受け入れる方向に転換したとの見方を示している。

 北朝鮮はインドやパキスタンの例のように、いずれは米国が核保有を是認すると計算しているに違いない。核や生物、化学兵器を搭載する射程1300キロメートルのノドン・ミサイル200基の目標は日本でしかない。日本は「核の北朝鮮」を前提としてどのような安全保障戦略を組み立てるのか。それが喫緊の課題である。弾道ミサイル防衛や自衛隊と米軍の連携強化を目指す在日米軍再編は「現在進行形」だが、集団的自衛権の行使を含めた日米同盟戦略の抜本的見直しが政治に課せられた重大な責任である。
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