国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-01-09 01:06

(連載2)反グローバリゼーションは「ポスト真実」である

角田 勝彦  団体役員、元大使
 中国の経済的成長とスマホの普及を見ても、反グローバリゼーションの無意味なことは明らかであろう。科学技術による「世界一体化」は止めようがない。SNSで個人は全世界と連絡できる。政府やメディアの力は弱まっている。国境を越えるモノ・カネ・ヒトの交流の激増は、世界ルールと世界標準の規制が及ばないまま、強欲資本主義により富の偏在と所得格差を生んだ。しかし成長は一連の恩恵をもたらした。基本的には生産活動を世界的規模でよりよく配分し、競争力を向上させた。世界規模の生産ラインの編成の変化は、米国のラストベルト(錆び付いた工業地帯)を生んだが、他国の生産者のみならず、米国の消費者にも恩恵を及ぼしている。とくに恩恵を受けたのは、中国、ベトナムなどの新興・開発途上国で、数億人を貧困から脱却させ、中間層を生み出した。

 国連は2001年に「極度の貧困(1日の生活費が1・25ドル未満)撲滅」などを掲げた「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」を制定したが、中国とインドの経済成長のおかげで、2015年までに対象人口は世界中で1990年の約19億人から8・3億人に減る。全人口に占める割合も1990年の36%から12%に下がる見込みで、「90年比で半減」の目標は達成された。

 成長が分配の基本であることには、異論は無かろう。問題は、生産された果実をどのように分配するかということにある。国内では税制と社会保障が中心となろう。ところでトランプのオバマケア(オバマの医療保険制度改革)撤廃への意向表明は、貧富の格差是正に逆行するのではないだろうか。国際面では世界政府が存在しない以上、国際組織などの合意に基づく規制に頼らざるを得ない(産油国の石油収入も問題になりうる)。反グローバリゼーションでは、税制や法制で規制すべき強欲資本主義に対抗することは出来ないだろう。

 要するに、反グローバリゼーションはかっての反アメリカナイゼーション(反米主義)を想起させる空虚なスローガンである。進む「世界一体化」を止めることは出来もしないし、利益より不利益をもたらそう。今こそ客観的な事実を分析し、冷静に対処することが必要である。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム