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2016-12-13 12:33

(連載2)アジアの乱気流と日米の課題

鍋嶋 敬三  評論家
 アジアの安全保障上、直近の危機は朝鮮半島である。北朝鮮に対して国連安全保障理事会は11月30日、石炭輸出の上限を設定する厳しい制裁決議を採択した。しかし、韓国の軍に対する統帥権を持つ大統領が不在の政治空白の下で、北朝鮮のさらなる軍事挑発に対する対処能力には大きな不安が生じた。韓国では次期大統領選挙に向け政界再編成含みで政局が混迷、左派系の大統領誕生の場合には、対米同盟関係、対日政策に大きな変化が予想される。北朝鮮に対する融和政策、対中国傾斜を強め、米韓政府間で合意していた米国の高高度地域防衛(THAAD)配備の拒否もあり得る。反日姿勢を鮮明にして慰安婦問題が振り出しに戻る恐れもある。日韓間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も有名無実化すれば、北朝鮮に対する日米韓の安保協力体制にひびが入りかねない。

 南シナ海問題で中国はフィリピンの「反米」ドゥテルテ大統領の出現を好機ととらえ、はしごを外された形のベトナムをも懐柔しつつ、紛争を二国間交渉に持ち込み、ハーグの国際仲裁裁判所による「中国全面敗訴」の決定(7月12日)を無力化する工作を進めるだろう。マレーシア、インドネシア、シンガポールなど米中間で揺れる東南アジア諸国連合(ASEAN)をどうつなぎ止めるかが日米双方にとって重要な課題である。安倍晋三首相が年明けにオーストラリア、フィリピン、ベトナムなどを歴訪する計画と伝えられる。日本が太平洋からインド洋にかけて地域安定のための協力体制を固めることは、トランプ新政権発足早々だけに、米国のアジア政策策定にあたり、日本が同盟国としての立場から働き掛けるための好材料である。

 トランプ氏への評価の中に「予測不能」がある。世界情勢が不確実性を増しているだけに、米国大統領の資質は世界の安定に大きな影響を与える。「世界の警察官にならない」というオバマ政権の下、世界に対する指導力の欠如がウクライナへのプーチン・ロシアの侵攻とクリミア半島の軍事併合、「イスラム国」(IS)によるテロやシリアの内戦など中東の混乱を招く素地を作った。力を誇示する中国や北朝鮮による一方的な行動など国際規範の無視を招いたことは否定できない。「核」を握る米国大統領の思考や行動が予測不可能であれば、世界の安定に反する。トランプ氏に求められるのは国際秩序を立て直すため、同盟関係の重要性を再確認し、国際協調主義に立脚した米外交の方向性を明確に示すことである。トランプ氏は「米国第一」と米国の国益を最重要視する。しかし、「世界益」はもっと大事ではないか。世界は「米国のために」あるのではなく、米国は「世界のために」働かなくてはならない。それが唯一の超大国の責任である。21世紀の世界はサイバーテロ、気候変動など国際協調なくしては解決できない問題が目の前に立ちはだかっている。

 安倍首相が11月17日に各国首脳の中で初めてトランプ氏と会談したことを改めて評価したい。同盟関係の強化にとっては首脳間の信頼関係の構築が何より大事だからである。次はお互いの世界観を披瀝して目指すべき世界像を共有する努力を傾けることである。米国による拡大抑止、米軍の駐留がアジア太平洋の安定に貢献し、それが米国の利益になってきたことを説かねばならない。TPPについても貿易ルールの世界標準として米国産業の利益にかない、対中外交の強力なてこになることを繰り返し説得すべきである。安倍首相は12月26,27日、ハワイの真珠湾へ慰霊の旅に出かける。ホワイトハウスを去るオバマ大統領との会談で日米の75年間の歴史を総括し、日米同盟関係の重要性を再確認する。これはトランプ新政権に対しても、20世紀の惨禍の歴史に幕を下ろし、新しいページを開こうとする日本の決意を示す大きな意味がある。(おわり)
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