国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-12-10 01:09

(連載1)プーチン訪日への期待値は下がった

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 プーチン大統領の訪日を前にして、筆者が注目していることは、11月19日のリマでの日露首脳会談と翌日のプーチンの記者会見の後、北方領土問題に関するわが国の報道や専門家たちの論調が大きく変化したことである。より正確には、その前の10月27日のソチにおけるヴァルダイ会議でのプーチン発言、11月1日のマトビエンコ上院議長の東京での発言の後に変わった、とも言える。最近の新聞の見出しや本文には、次のような言葉が連なるようになった。「領土交渉に高い壁」「露は平和条約を急がず」「プーチンは領土問題解決を先延ばしして、経済協力のみを得ようとしている」「日露の温度差が浮き彫りになる」「交わらぬ両国の主張」「プーチン来日は、終わりではなく始まり」「領土問題でロシアが妥協すると考えているとすれば、日本人はナイーブすぎる」。

 端的に言えば、平和条約問題進展の可能性に関して、楽観論が消え、今では歯舞、色丹の2島返還も難しいという悲観論が一般的になったということだ。その理由として、プーチンやロシア側要人の発言が、最近急に厳しくなったと思っている者が多い。あるいは、親プーチンのトランプが米大統領選で勝利したことも、影響しているのかもしれない。ロシア国内の反日勢力が圧力を強めている、との見方もある。しかし、これらは間違いである。というのは、北方領土問題ではプーチン自身が近年繰り返して、強硬発言を続けていたことを、筆者は知っているからだ。

 しかし、日本のメディアは主として、例えば「ヒキワケ」といった期待を持たせる発言に飛びついて、それを大きく報道し、強硬発言は無視してきた。それゆえ、「プーチンは柔道家で、親日家であり、メドベジェフ首相、ラブロフ外相その他の側近の強硬派と異なって、彼の対日姿勢は柔軟である」といった見方も広まっていたのだ。さらに、プーチンは国内の支持率が80%以上の強力な大統領なので、領土問題でも思い切った決断ができる、との期待もわが国では強まっていた。

 したがって、12月の訪日時には、プーチン自身が「両国の国会で批准されており、法的拘束力がある」と幾度も強調している1956年の日ソ共同宣言に従い、少なくとも面積わずか7%の歯舞、色丹は返還され、日本側も「プラスα」とか、「残りの島の継続協議」などで妥協するのではないか、との見方が強まっていた。わが国のあるロシア問題専門家は最近の雑誌で、「プーチン大統領にとって、クリミア問題と比べると北方領土問題はさほど難しい問題ではない。2島どころか4島返還もあり得る、というシナリオが今動き始めた」とさえ述べている。このように、わが国では一方的にナイーブな楽観論のみが広まり、プーチン訪日に関連して期待値が非常に高まっていたのだ。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム