国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-12-08 19:08

カジノ推進法案のごり押しはあんまりだ

角田 勝彦 団体役員、元大使
 カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備を政府に促す議員立法「カジノ推進法案」の今国会成立の公算が高まった。12月6日の衆院本会議で、自民党、日本維新の会などの賛成多数で可決(公明は自主投票)され、参院に送られたのである。杉浦正章氏が、本欄への寄稿「カジノ論争は6対4で蓮舫の勝ち」で「少なくとも継続審議へと方向転換すべきであろう」と説かれているが、以前、法案を作成した議員連盟の最高顧問を務めた安倍総理には「かえるの面に水」のようである。議員立法だとして、我関せずのごとく答弁を避けた感がある。



 「カジノ推進法案」は、成立後政府が制度設計を進め、施行後一年以内をめどに実施法案をつくると定めているから、その際の国会の良識に委ねることになりそうである。「カジノ推進法案」には(1)カジノの合法性、(2)経済効果、(3)ギャンブル依存症対策、など疑問が多い。公明・山口代表も指摘するように「国会の審議時間が短い」という問題もある。民進、共産、社民、沖縄の風の各党・会派に加え、マスコミを含め国民の反対も強い。国民生活に直接悪影響をもたらす問題である。マスコミは国会議員各自の投票責任を明らかにしていくべきだろう。賭博は刑法(185・186条)で罰せられる。公営ギャンブル(競馬・競輪・競艇など)のような「法令又は正当な業務による行為」では違法性が阻却される。パチンコは、現金や有価証券ではなく、賞品を景品として出すことが、風俗営業法で認められているため、刑事罰の対象にならないが、カジノを模した遊技場はゲームセンターとされ、遊技の結果に応じて賞品を提供することを禁じられている。



 カジノ推進法案はひっきょうカジノ賭博を合法化するためのものである。賭博が公序良俗に反すること、すなわち「禁止の法益」として健全な経済活動及び勤労への悪影響防止と副次的犯罪の防止があること、には変わりない。言い換えれば、賭博は国民の射幸心を煽り、勤労の美風を損い、国民経済へ悪影響を及ぼすものとの基本理解に変わりはない。公認賭博にカジノを追加しようとする推進派は経済効果を力説する。11月2日、BS日テレの「深層NEWS」でカジノ賛成派の岩屋毅(自民党)氏は「観光立国を加速化させるためにも役に立つ」と主張し、同じ立場の小沢鋭仁(日本維新の会)氏も「エンターテインメント性や経済効果もある」と述べた。反対派の近藤洋介(民進党)氏が「カジノの経済効果は経済学的に分析しなければならない」と語ったように、具体的景気浮揚効果を論じる必要もある。例えば最近では、アトランティックシティーのトランプ氏のカジノホテル「トランプ・タージマハール」が閉鎖に追い込まれた例もある。



 しかしもっと重要なのは、清水忠史(共産党)が「依存症や犯罪などの損失も考えないといけない」と指摘したように、社会的コストの問題である。最も気がかりなのは、ギャンブル依存症の拡大である。日本では競馬や競輪などの公営賭博に加え、遊技扱いのパチンコやパチスロが身近にあって、依存症の患者は多い。厚生労働省研究班の3年前の調査では、依存症が疑われたのは推計5百万人を超え、成人の5%近くを占めた。1%前後にとどまった諸外国に比べて格段に高かった。カジノの合法化は、治安悪化や人心荒廃に拍車をかけることになろう。法案そのものが有害性を認め、排除する手だてを講じるよう定めているのである。資金洗浄の恐れなどもある。国民の勤勉さは、日本の宝である。経済よりモラルが大切である。カジノミクスなどと言われる前に「美しい国」を目指すべきであろう。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム