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2016-12-08 06:51

カジノ論争は6対4で蓮舫の勝ち

杉浦 正章 政治評論家
 魔女が蜘蛛の糸をはいて、安倍を絡め取るの図であった。党首討論は政権の紛れもない弱点であるカジノ解禁法案の土俵に、安倍を引き込んだ蓮舫が6対4で勝った。安倍はアベノミクス批判に対しては蓮舫の事実誤認を指摘して一本とったが、“カジノでの大負け”を挽回するまでには至らなかった。蓮舫が練りに練った「口撃用語」を準備、満を持して望んだのに対し、安倍はこれを軽く見て党首討論戦略に欠けた。党首討論なのだから蓮舫の弱点である安保・外交論議に誘導すればよいのに、予算委並みの追及・防御に終始したのが失敗だった。流行語の「神ってる」や、「息をするように嘘をつく」など次から次に繰り出すキャッチコピーは、さすがにテレビタレントだけあって軽いが、視聴者の印象に残るものであった。安倍の失敗は、カジノで守りの論争に回ったことである。逆に蓮舫は32分の持ち時間のうち20分をカジノに費やし、攻めに攻めた。



 蓮舫は「カジノは、なぜ問題なのか。それは負けた人の掛け金が収益だからだ。新たな付加価値は全く生み出さない。これのどこが成長産業なのか。私は国家の品格に欠くと思う」と追及した。至極もっともな正論である。安倍は「議員立法なので法案の中身を説明する責任を負っていない」と、我関せずのごとく答弁を避けたが、このキーポイントが勝敗を分けた。なぜなら、土俵は「党首」の討論の場である。予算委のように首相としての立場で答弁する場所ではない。党首が双方向の主張をするための場である。首相と党首を分ける言い逃れは稚拙だ。党首として説明責任が当然あるのだ。加えて安倍はかつてカジノ議連の最高顧問であり、旗振り役であった。蓮舫が説明を求めるのは当然であろう。安倍は新聞がこぞって反対するカジノ法案を提案する負い目があるから逃げの答弁をしたことになる。



さらに安倍の負けが鮮明になったのはカジノ法案の説明で「いわば統合リゾート施設であり、床面積の3%は確かにカジノだが、それ以外は劇場であったり、テーマパークであったり、ショッピングモールであったり、あるいはレストランであるわけだ。」と答弁したことである。安倍はカジノが総合リゾートの一部であると強調したのだが、蓮舫は「ただのリゾート施設だったら法律は要らない」と真っ向から面を取った。続いて「カジノが入っているから、こうやって法律を出しているのではないか。だからカジノがどうしたら成長産業に資するのか、と何度も伺っても、総理のその答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」と決めつけた。蓮舫の「息をするように嘘をつく」は、過去に安倍が「強行採決をしようと考えたことはない」と答弁した後に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認案などの採決を強行したことが念頭にあっての発言だ。蓮舫は「強行採決をしたことがない?よく、息をするように嘘をつく。TPP、年金カット法案、カジノ、全部強行採決じゃないですか。ここは参議院だ。良識の府の参議院は、みんな忘れない」と決めつけた。



さらに安倍はカジノ法案について、蓮舫が依存症などの弊害を指摘したのに対して、「いずれにしても、今回は基本法であり、より具体的な法案が出てくる中において、そうした懸念にも具体的な答えを出していくべきだ」と答えた。しかし過去の例を見ても基本法を突破口にして狙いを達成するのは与党の定石であり、基本法を阻止しない限り、関連法案で歯止めをかけても実態は変化しないのが常識だ。これも理屈が通らない発言である。安倍も負けが込んで逆攻勢の機会をうかがっていたのか、蓮舫が「有効求人倍率は改善されたかもしれないが、東京に一極集中しているからだ。地方に仕事がない」と決めつけたことを「しめた」とばかりにかみついた。安倍は「有効求人倍率が各県で回復したのは東京一極集中が進んだせいではない。人口が減少すれば、有効求人倍率が良くなるという考え方で経済政策を進めれば間違える。驚くべき議論だ」と反撃に出た。確かに蓮舫が無知をさらけ出して安倍に討ち取られるの図であった。また安倍が蓮舫の側近である役員室長柿沢未途がカジノ法案提出者になっていることについて「役員室の中までばらばらだ」と逆襲したが、蓮舫はちゃんとした答弁ができなかった。こうして安倍に2本取られたが、蓮舫が3本取って勝ちとなったのだ。



 この討論会について、新聞論調は朝日が社説で「安倍さんあんまりだ」と数の力を背景に野党の異論に誠実に答えないと批判。読売も「首相はカジノの説明を尽くせ」との見出しで、国民の懸念が大きいと主張している。マスコミがこぞって反対し、参院自民党内でも反対論が強く台頭している。従って党首討論で浮き出た構図は「正義」対「邪悪」の構図である。このような賭博是認法案の成立は、賭博是認の風潮を社会全体にに巻き起こし、安倍政権への失望感を増幅するだろう。大小の「賭け」が子供の世界にまで及ぶ危険性を内包している。今からでも遅くはない。安倍シンパの山本一太が「カジノ法案はもっと慎重に審議すべきだ。今国会で強引に成立させることには反対する。安倍政権にとってもマイナスだ!」と大反対しているが、安倍は山本らを活用して、少なくとも継続審議へと方向転換すべきであろう。
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