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2016-12-02 06:07

社会悪をはびこらせるカジノ法案が成立の流れ

杉浦 正章  政治評論家
 いくらアベノミクスが不振だからといって、ばくちにまで手をだしてはいけない。カジノ法案に自民党が突撃し、12月2日の衆院内閣委員会で採決しようとしているが、これほど筋の悪い“政治”はかって聞いたことがない。おまけに、朱に交われば赤くなるのか、焦点の公明党までもが、歯止めをかけられなくなりそうだ。背景には日本維新の会を巻き込んだ自民党の国対戦術があるようだ。公明は巧妙な自民の国対戦術に追い込まれて、採決容認に踏み切った。事前に再調整するが、最終的には賛成する可能性が大きく、存在感を発揮せざるを得なくなった形だ。それにしても、ただでさえパチンコ、競馬への依存症で家庭を地獄に陥れ、社会を混乱させている現実を知らぬかのように、自民党は「ここまで来たら成立させるしかない」のだそうだ。事実、その可能性は高まった。永田町には最近内外の業者による陳情が活発化しており、業者の手が回っているのかと思いたくなる。保守系の読売新聞までが社説で「人の不幸を踏み台にするのか」と、アベノミクスの推進材料にすることに真っ向から反対している。法案の強引な採決は、国民の反発を招くことが必至である。

 そもそも日本人は、とりわけ賭博依存症になりやすい国民性があるとされている。伝統があるのだ。日本書紀に持統3年(689年)12月8日に「禁断雙六(すごろく)」の記述がある。「双六」が中国から入って以来、賭博として流行したため、財産を失う者も続出。今で言う依存症だ。そのために持統天皇が禁制を敷いたのだ。賭博禁止令が出された。現在もパチンコ、競馬などの賭博依存症の疑いがある人は、推計で536万人に上ることが、厚生労働省研究班の調査でわかっている。成人全体で4.8%、男性に限ると8.7%を占め、世界的にみても突出している。他国の調査では、成人全体でスイスが0.5%、米ルイジアナ州で1.5%、香港で1.8%だ。女性の中毒患者も多く、20歳前後でギャンブルを始め、借金に手を出す。治療を受けたり、やめるためのグループ療法を始めたりするが、この間に1000万、2000万円をつぎ込む。依存症の主婦の多くが家計をごまかし、子どものお年玉や親の葬儀の香典にも手をつける。借金とうそを重ね、家族を精神的な病気に追い込むこともあるという。まさに家庭は地獄の様相を帯びてしまう。

 馬鹿な自民党の推進論者は「競馬、競艇など公営ギャンブルやパチンコがよくて、なぜカジノが駄目なのか」というが、現在あるものだけでも社会的な問題を引き起こしているのに、さらに加速させるのがまっとうな政治かと言いたい。自民党は刑法185条で禁止されている賭博を解禁しようとしているのだ。最高裁でも「金銭そのものを賭けることは、たとえ1円であっても、賭博である」という判決が昭和23年に出ている。推進派は「世界120か国で合法化されている」と主張するが、日本は数少ない合法化しない立派な国なのだ。政調会長茂木敏充も「国内の観光振興からも極めて重要」と述べているが、カジノと経済の相関関係のイロハを勉強した方がいい。カジノの収益は負け金であり、負け金が勝ち金より多くなければ、カジノ経営は成り立たない。一方で国民に、例えば1000億円の負けが生ずれば、同額の購買力が失われるのだ。地域の消費性向に悪影響を生ずる。勢い外国からの客に依存することになるが、カジノは韓国、台湾、シンガポール、マカオなどで乱立しており、飽和状態にある。

 そもそもカジノ経営は斜陽産業なのであり、米国では倒産も続出している。筆者もワシントン勤務時代にブームに沸いたアトランティックシティーに遊びに行ったことがあるが、案の定100ドルあまりだが、すっからかんにさせられた。帰りのガソリン代までなくなりそうになった。なんと最近のアトランティックシティは共倒れが相次いで、3分の1が閉鎖だという。公明党がどう出るかが焦点だが、首相・安倍晋三は与党党首会談で、公明党代表・山口那津男に法案成立への協力を依頼している。山口は先に記者会見で夏にパナマでカジノを見学した印象を、「大勢のお客さんでにぎわっている雰囲気は感じなかった」と指摘、「観光振興の切り札とは必ずしも言えず、むしろ副作用の現実を見てきた。既存の資源で観光振興を果たすのが正攻法だ。」と述べ、慎重姿勢だった。

 公明党は12月1日、本格的論議に入ったが、「施設の設置は地方創生にもつながる」、「施設の建設に伴う経済効果が期待できる」など、法案に賛成すべきだという意見が出た。一方で、「ギャンブル依存症対策は十分とは言えない」といった懸念や、「急いで結論を出すことには反対だ」などと慎重論も出て、収拾が付かなくなった。公明党は「会議としての意見集約は困難だ」として今後の対応を山口ら執行部に一任することになった。ここは山口がリーダーシップを発揮するときだが、どうも雲行きがおかしい。採決自体を容認し、採決も落ちこぼれはあっても、基本的には賛成の方針のようだ。公明党は一時代前は清廉潔白な党を売りにしていたが、連立政権になって以来、政権の甘い蜜におぼれ始め、冒頭述べたように自民党に対する歯止めの役割を果たさなくなった。公明党の綱領は「われわれが内に求め、行動の規範とするのは、高い志と社会的正義感、モラル性、強い公的責任感、そして民衆への献身です」 と高らかにうたっており、この原点に帰るべきだが、自民と維新の共同歩調に負けた形だ。連立なのに野党と組まれては、メンツが立たない状況に追い込まれたのだろう。採決容認によって成立へ向かう公算が一段と強まった。
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