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2016-11-21 11:44

リーダーシップを世界に演出した安倍首相

鍋嶋 敬三  評論家
 ドナルド・トランプ米次期大統領の勝利からわずか1週間後の11月17日に行われた安倍晋三首相との会談は、次期政権下の日米関係やアジア情勢に重要な意味を持つものとなった。世界の主要国に先駆けての「首脳会談」でトランプ氏が用意した同席者は意表を突くものであった。安倍首相側は通訳のみに対して、寵愛する長女のイバンカさんと夫のクリシュナー氏、さらにフリン元国防情報局長である。これが示すことは何か?絆の強い身内の同席は、初対面の相手であっても信用して親愛の情を示すのが、米国の家庭である。早くも信頼関係を築こうとするトランプ氏の心情がうかがえる。フリン氏の同席は、政権発足を前に外交、安全保障、国際経済体制など主要な戦略課題について、首相の発言に耳を傾けた上で、政策の方向性を固めようとする姿勢の表れである。フリン氏はこの2日後の19日、国家安全保障担当の大統領補佐官に指名された。

 初顔合わせから見えたことは、トランプ次期大統領が安倍首相を世界のリーダーとして正面から受け入れ、耳を傾けたことである。会談後首相がトランプ氏を「信頼できる指導者と確信した」と語り、首相をトランプ・タワーの1階まで降りて見送ったトランプ氏も、ツィッターで「すばらしい友人関係の始まり」と評価したのは、日本および日米関係にとって大きな成果だった。二人は馬が合ったのだろう。米外交問題評議会(CFR)のスミス日本担当上級フェローは18日、「どこから見ても、幸先のよい幕開け」と表現した。首相にとってこの会談は国内的、対外(対中)的に「リスクの高い賭」であったが、日米同盟の強じん(きょうじん)さについての「重要な試金石」だったとして、トランプ氏を打ち解けさせた首相の手腕を評価した。

 トランプ氏は選挙中に在日米軍駐留経費の全額負担要求、時代遅れの北大西洋条約機構(NATO)批判、環太平洋連携協定(TPP)からの撤退など、米国が戦後主導してきた同盟関係や国際経済秩序に対する反対論をぶち上げてきた。共和党主流派の伝統的な政策とはかけ離れていることから、アジアや欧州に不安を巻き起こしていた。政権移行チームの内紛も伝えられ、トランプ政権の政策の方向や、一部を除く主要人事の骨格は明確に見えてこない。トランプ政権の針路は、ロシアや中国による現状打破の動きが加速する国際秩序に大きな影響を与える。カーネギー国際平和財団のショフ上級アソシエイツはトランプ氏登場の究極の問題は「アジアにおける米国のリーダーシップの継続が米国の戦略的利益になるものと見なすのかどうかにある」と指摘した。「日本のような同盟国の犠牲の上にアジアにおける指導力が弱まれば、アジアの中級国家は日本を含めて対中傾斜を強める」と警告している。

 これは国際秩序の変革期において、なお唯一の超大国である米国の動向が世界情勢を左右する力を持っているからである。トランプ氏の行動原理は「取引」とされる。米国でも欧州でも内向きの保護主義の傾向が強まる中で外交、安全保障、国際経済、地球温暖化など世界規模の問題についての「無理解」は世界の安定への大きな障害になる。時代の変わり目に登場した新しい指導者が「白紙」のうちに正しい情報を与えるのが同盟国の指導者の務めである。両氏とも会談内容を明らかにしなかったが、首相が「私の基本的な考え方について説明した」と語っていることからも、日米同盟関係のアジア太平洋地域にとっての重要性、高度な水準の貿易自由化を目指すTPPの意義について詳細に語ったことは間違いない。同盟関係の基礎は首脳の信頼関係である。日本側は政権発足直後の2017年2月にも2回目の会談を期待しているが、安部・トランプ関係がかつて花開いた中曽根・レーガン、小泉・ブッシュ関係のように発展するかどうかは、安倍首相の力量にかかっている。
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