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2007-04-02 12:12

公務員制度改革は冷静に

角田勝彦  団体役員・元大使
 3月27日の経済財政諮問会議における安倍総理の指示を受け、政府は、公務員制度改革の基本方針を決め、4月中に国家公務員法改正案を国会に提出する方針と伝えられる。基本方針の柱は、(1)省庁による職員、OBへの再就職斡旋の禁止、(2)内閣府に置く新たな人材バンクへの一元化、(3)現職職員の求職活動やOBによる現職職員への働きかけの規制、(4)職員採用試験の種類や年次にとらわれない能力・実績主義の導入、(5)専門スタッフ制や公募制の導入とされる。これは「簡素で筋肉質の政府」を目指し、従来の公務員の総人件費抑制・定員減などの改革に続くものである。省庁再編も検討されているらしい。

 安倍総理は、公務員制度改革を「戦後レジームからの脱却の中核」と位置付けている。今回は、とくに天下り防止を中心的関心事に置いているように見える。しかし注目すべきは、むしろ、基本的視点及び(5)である。そもそも基本的視点に問題がある。たしかに経済官庁などのキャリア(数は限られているが)が天下りし何度も退職金を受けとっている事態は庶民には受け入れられず、公務員・議員のいわゆる特権とともに、マスコミの好餌になっている。「官僚」を新しい守旧派の敵役に仕立ててやっつければ人気が高まり、選挙で有利になるかも知れない。しかし公務員が、民間に比べ無能、非効率で、かつ天下りに見られるように私利・省益のため公益を軽んじているとの一部にある先入観は、いくら俗受けするにせよ、客観的検証に耐え得るものではない。とくに批判が強い幹部公務員にこそ公益の志を持つ者が多い。

 また戦後、公務員は、天皇の官僚から国民の公僕になっている。「戦後レジームからの脱却」というが何を意味するのであろうか。国民の公僕から総理官邸の僕になれというのであろうか。日本は大統領制でもない。官僚もアメリカ的回転ドア方式によって政権交代の都度、任免される訳ではない。公僕であるためには、一定の独立性が確保される必要がある。

 行政は重要な仕事である。政治は方針を決定し、実施は行政に委ねるというのが民主主義の智慧(三権分立)である。行政には、古今東西・政治体制を問わず、行政官という担当者が必要である。煩雑多岐な行政事務は、かなりの能力と熟練を持つ多くの行政官を必要とする。人材確保と育成が必要である。なお1府12省庁を一括して考えてはならない。とくに外交と安全保障は特別の仕事である。特殊性・専門性がある。配慮すべきである。

 (5)に関し19年度に各省庁の幹部ポストの1割を公募し、その後も拡大する方針とされるが、学者や民間人、あるいは政治家を登用すれば、より良い人材が得られるというのは幻想だろう。官僚いじめが進めば、優秀な人材は官界に流入せず、むしろ流出していく怖れすらある。数値目標を立ててもしょうがあるまい。なお、能力・実績主義の導入は当然だが、試験はもともと能力を見るためのものである。実績については行政事務の性質上客観的判定は困難で、恣意的判断が行われる危険性に留意すべきである。試験と年次による区別の基本を否定することができるのだろうか。
 
 天下り批判はわかるが、この制度改革は公務員の生涯設計の全体像を描きつつ検討すべきである。それで間に合う問題である。たとえば、特権なるものは予算査定でいくらでも処理できるし、談合、とくに官製談合は、現行法制のもとでも処罰の対象になっている。自民党内の慎重論が強く、人材バンクの一元管理の開始が早くとも11年度に繰り下がったのは歓迎されるべき修正である。要するに角をためて牛を殺す拙速は避けるべきである。
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