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2016-11-04 11:20

(連載1)「核兵器禁止条約」決議への反対投票は誤りである

角田 勝彦  団体役員、元大使
 日本政府は、国連総会第1委員会で、10月27日採択された「核兵器禁止条約」制定交渉の2017年開始を定めた決議案に反対し、核兵器を巡る複雑な立場を露呈した。同委員会に我が国が提出した核兵器廃絶決議案が、10月27日167か国の支持を得て採択された事実はあるが、唯一の被爆国であり5月のオバマ米国大統領の広島訪問の際には日米で核兵器のない世界に向けた努力を誓い合った我が国としては、「核兵器禁止条約」決議案にも反対でなく棄権にとどめるべきであったろう。10月3日国連総会第1委員会(軍縮)で「核兵器禁止条約」を巡る議論が本格化した背景には、核保有国主導の「段階的アプローチ」と呼ばれる核軍縮プロセスが、なかなか進まないことへの世界の不満がある。

 2000年の核不拡散条約(NPT)再検討会議の最終文書では核保有国側も、核兵器の廃絶を達成するとの「明確な約束」をした。しかし、01年の米同時多発テロを受け、米ブッシュ政権のもとで核軍縮プロセスは失速した。09年に「核兵器なき世界」を唱えたオバマ大統領は、10年にロシアと新戦略兵器削減条約(新START)に調印したが、その後世界の核兵器1万5000発超の9割を保有する米ロ両国の核削減はウクライナ情勢もあり、思うように進んでいない。

 包括的核実験禁止条約(CTBT)の採択から20年が経過したが、同条約はいまだ発効に至っていない。そして15年5月にNPT再検討会議は決裂した。オバマの「核兵器なき世界」も、16年9月の国連安保理の核実験自制決議がやっとの成果らしい。他方、北朝鮮などへの核拡散すら生じている。このような背景において、16年8月、国連の核軍縮作業部会は、核兵器禁止条約の締結交渉を来年中に開始するよう勧告する報告書を、賛成多数で採択した。注目すべきは、勧告書を作成する作業が核保有国抜きで進められ、非保有国でも意見が分かれたことである。報告書は、メキシコやオーストリアが主導し、68か国が賛成した。韓国やオーストラリア、ドイツなど22か国は反対票を投じ、日本など13か国は棄権した。

 米を含む核保有国は、核兵器禁止条約について「非現実的かつ実行不可能。国際的な安全保障環境を考慮していない」(9月27日米国務省のフリート筆頭副次官補)と指摘し、反対の意を表明していたが、メキシコやオーストリア等は10月13日総会第1委員会(軍縮)へ、17年の条約制定交渉開始に向けた総会決議案を提出した。10月27日、この決議案は東南アジアやアフリカ、中南米などの計123か国の賛成により採択された。核兵器を禁止する法的拘束力のある文書の策定に向け、来年3月に国連で初の核兵器禁止条約交渉が始められることになろう。問題は、「各国の抑止力に与える影響への配慮が決議に欠けており、現実を無視した取り組みだ」という判断から、核保有国の米英仏露に加え、米国の「核の傘」に頼る日、韓、独、豪州など計38か国が反対したことである。(つづく)
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