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2016-10-25 06:01

韓国大統領候補らが慰安婦像撤去に反対

杉浦 正章  政治評論家
 石川さゆりの「天城越え」二番に「刺さったまんまの割れガラス」というくだりがある。まさにソウルの大使館前の慰安婦像の姿そのままだ。昨年暮れの日韓合意でも一応触れられているが、当時筆者が「その実態は韓国による“やらずぶったくり”の危険を伴うガラス細工の合意ではないだろうか」と指摘したとおり、1年がたとうとしているのに、撤去のめどは立っていない。それどころか「慰安婦像設置病」が、今度は上海にまで転移した。なくなるどころか、世界中に増えるのを韓国政府も“黙認”したままだ。そうこうするうちに韓国では来年末の大統領選に向けて、慰安婦像問題が焦点の一つになりそうであり、候補らは撤去反対を口にし始めた。「撤去」を主張して当選する者はいないから、「撤去反対の大合唱」になりかねない。朴槿恵が任期中に“処理”するしかないが、このままでは事態がうやむやになってしまいそうな雰囲気である。そもそも外相・岸田文男が合意した日韓合意そのものがあいまいであった。慰安婦像に関して合意は「韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力する」としており、撤去時期にも言及がない。表現があいまいであることだ。外相・尹炳世(ユン・ビョンセ)の記者会見における見解でも「関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」と、やはり確約ではない。むしろ努力目標のように感ずる。合意そのものが甘かったのだ。

 日本政府はきまじめにも元慰安婦支援財団に10億円を拠出、元慰安婦には今週から1人1000万円が支払われる。しかし、その合意の履行については、全く展望が開けないのだ。そればかりか、韓国側は安倍の「お詫びの手紙」まで求め始めた。安倍は既に合意に基づき朴槿恵に「心からのおわびと反省の気持ちを表明する」と陳謝しているが、韓国の元慰安婦支援財団が再び要求し始めているのだ。安倍は国会で「われわれは毛頭考えていない」と発言したが、当然であろう。安倍は9月7日の朴槿恵との首脳会談で「慰安婦問題に関する合意に少女像の問題を含め、引き続き合意の着実な実施に向けた努力を行ってほしい」と強く要求した。朴は「日韓合意を着実に実施していくことが重要である」と答えている。しかし韓国政府が国内を説得して像の撤去に動いたかというと、その気配は全く伝わって来ていない。そうこうするうちに上海に設置されてしまった。

 習近平がこれを知らないわけがなく、朴槿恵も知っていての「中韓合作」の演出と受け取れなくもない。朴槿恵も対中関係が冷え込んで経済的にも痛手を感じており、「合作」で対中関係の改善に動いたと考えても不思議はない。そうこうするうちに大統領選を1年後にひかえて、慰安婦合意に逆行する動きが政界で生じ始めた。韓国聯合ニュースによると、韓国の野党第2党「国民の党」の前代表で、来年末の大統領選挙の候補に名前が挙げられる安哲秀が元慰安婦と面会、「韓国国民の中には、慰安婦問題で(日本から)謝罪を受けたと考えたり、(日本政府が)責任を取ったと思ったりする人はいない。韓国政府はこの問題の解決に向け原点に戻り、国民と共にあらためて考えるべき」と、慰安婦問題ぶり返しを主張。少女像の移転については、「あり得ないことだ」と否定した。この発言は、今後大統領候補が「慰安婦像撤去反対」を公約にして選挙に臨む可能性があることを物語る。そうなれば誰が選ばれようと新大統領が、岸田・尹炳世の“あいまい合意”を実施に移すことなどあり得ないだろう。

 したがって朴槿恵が在任中に処理するしか方策は無いことになる。確かに日韓合意後の日韓関係は北の核・ミサイルの挑発対策や経済交流の活発化、青少年交流、オリンピックへの相互協力など未来志向の関係樹立へと動いている。これは重要なことであり、朴槿恵に至っては経団連会長・榊原定征との会談で韓国の若者の採用を拡大するよう要請した。「若者の交流は韓国の若者の失業率の増加や日本の求人難を解消するとともに、両国の経済協力強化の土台になる」と述べたのだ。韓国の9月の失業率は3.6%で、前年同月から0.4ポイント悪化、2005年(3.6%)以来、11年ぶりの高さとなった。それにしても、失業率対策を他国に求めるという指導者は聞いたことがない。この発言が物語ることは、臆面もない“やらずぶったくり”の精神が韓国に内在すると言うことだ。それに安倍政権はまんまと一杯食わされたのだろうか。石川さゆりは「口を開けば 別れると刺さったまんまの 割れ硝子」 のあと「ふたりで居たって 寒いけど」 と続くが、安倍・朴関係は“寒く”なってきた。朴槿恵の“食い逃げ”が、現実のものにならないよう、安倍は手を打つべき時だ。「やらずぶったくり」は、言葉で生きる民進党幹事長・野田佳彦が喜んで唱えそうな発言だが、総選挙が近づいたのに、またまたマイナス要素が加わった。
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