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2016-10-18 06:59

1月総選挙戦略に「国論分裂」が暗雲

杉浦 正章  政治評論家
 長期政権というのはどうしてもひずみが出てくるもので、そのひずみを是正するには絶妙なタイミングで解散するしかない。佐藤栄作政権が最長不倒距離を維持したのは、そのリセットを巧みに繰り返したからだ。とりわけ沖縄返還解散で300議席取ったのが大きい。首相・安倍晋三も、時期はともかく解散リセットが不可欠なのだろう。1月の解散・総選挙は大きな可能性ではあるが、思い込みは禁物だ。なぜなら、(1)環太平洋経済連携協定(TPP)、(2)南スーダンでの駆けつけ警護、(3)北方領土問題の“三大国論分裂要素”に囲まれているからだ。国論が割れるということは、息も絶え絶えの野党が、割れた片方の支持を得ることであり、多くが野党にプラスに作用する。従って政治記者は、自民党幹事長・二階俊博がまるでオオカミ老年のように「解散だ」と騒ぐことは、怪しいと感じる感性がなければならない。まず解散・総選挙の決断は、(自民党290議席の4割にあたる約120人の当選1、2回の)「安倍チルドレン」をいかにして当選させるかにかかっている。これを増やすのは無理としても、せめて減らさないことが首相たる者の判断の根底となる。公明党と併せて衆院で3分の2議席を確保出来るかどうかは、すべてチルドレンの当落にかかっているのだ。従って次回の選挙は「攻め」と言うより「守り」の選挙にならざるを得ないのだ。

 では守れるかというと、すべてが今後2年の間にいつ解散を断行するかにかかっている。普通幹事長でも解散問題は首相専権事項として発言しないものだが、二階俊博だけは別だ。口を開けば「解散」だ。それも過去半月で3~4回も立て続けに発言している。この結果、年内解散の「11月30日解散説」まで囁かれはじめるに至った。二階の狙いは、選挙を知らず「安倍が当選させてくれる」と他力本願のチルドレンを自覚させることにある。しかし解散風も煽りすぎると、かえって国政がそっちのけになる。絶妙のバランス感覚を持つ官房長官・菅義偉が、水をかけ始めたのは、そのためだ。政局への理解能力のない駆け出し記者は、菅発言まで解散を煽ったものと受け止めたが、その真の狙いは沈静化を狙ったものだ。菅発言のポイントは「参議院選挙で私たちは信を得ることが出来た。私たちは国民のみなさんに約束した経済対策をしっかりと実現できるように、全力で取り組んでいくことがまず大事だと思っている」にある。駆け出し記者は「解散風というのは偏西風みたいなものだ。偏西風は1年間、吹きっぱなしだ」 をとらえたが、これは一般論だ。むしろ「解散より経済が大事」と受け取るべきだろう。

 ”三大国論分裂要素”を考えたら、菅も慎重にならざるを得まい。まず(1)TPPは参院選で実証済みだ。野党の「農村切り捨て」プロパガンダが成功して、32の1人区では野党統一候補を善戦させてしまった。東北6県のうち秋田を除く5県や新潟など11選挙区で野党が勝った。前回はたったの2議席であったから、大躍進だ。野党は衆院選でもTPPを最優先課題の一つに掲げることは間違いない。16日の新潟知事選で敗北したこともTPPが少なからず作用している可能性が濃厚だ。次に、紛れもなくばりばりの右寄りである防衛相・稲田朋美の起用が物語るように、安倍が従来のバランスを失って右に傾きすぎているのが、(2)PKOの駆けつけ警護だ。任務を付与するにしても12月の着任直前になるから、1月総選挙なら戦死者は出ていない段階だろうが、それでも分裂要素だ。比較的保守指向の有権者でも、いくらなんでも、アフリカくんだりで、戦死を覚悟の危険を冒すのかという疑問はぬぐえまい。新たに右ウイングが分裂するという要素が加わってしまうのだ。これも野党の思うつぼにはまることになる。集団的自衛権の行使の「実績作り」にしては、政権に与える損害が甚大すぎる。

 そして(3)北方領土問題だ。これは成功すれば他の二つの分裂要素をカバーして再び300議席も夢ではない結果をもたらすが、問題は沖縄返還のようにクリアカットではないことだ。ロシアのスタンスは4島の主権がロシア側にあるとの立場から、歯舞・色丹は日本に「贈与」するくらいのところであろう。それを安倍が押し戻して、4島の帰属は日本と確認し、歯舞・色丹は贈与でなく「返還」、「国後・択捉は継続協議」に持ち込むところまで持って行けるかどうかがポイントだろう。それなら300議席は無理でも、現状維持は可能だ。しかし高支持率だけで生きているロシア大統領・プーチンがそうやすやすと、譲歩するかどうかは疑わしい。プーチンにとってみれば、安倍が選挙で大勝するような結果をもたらせば、自分の基盤が危うくなるのだ。こうして“三大国論分裂要素”は、どれ一つをとってもプラスには作用しにくい。それでも選挙に踏み切るとどうなるか。敗北すれば、3月の党大会でたとえ総裁任期を延長か、無期限にできても、再来年9月の総裁選で安倍3選がなるかどうかはおぼつかなくなる可能性もある。従って二階がオオカミ老年を演ずるのはよいが、そのまま解散・総選挙が1月に実現するかどうかは、そう簡単ではない。
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