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2016-09-30 04:30

ガラパゴス国会に新風を吹き込め

杉浦 正章  政治評論家
 最近スタンディング・オベーションで感動したのは高畑淳子主演の舞台「雪まろげ」で、観衆が総立ちになってカーテンコールをしたことだ。「頑張れ」の声援もとんだ。高畑は涙でこれに応えた。息子の問題であるにもかかわらず民放テレビが「高畑いじめ」を執拗に繰り返すのを見て、苦々しく思っていたが、同じ思いを抱く人が多かったことが分かった。最近は、感動したら日本でもスタンディング・オベーションをするようになってきた。小澤征爾の指揮に感動して立ち上がったことがあるが、クラシック・ファンですらそうだ。スタンディング・オベーションなど米議会では日常茶飯事だ。

 翻って日本の国会を見ると、ガラパゴス化が進んでいるとしか思えない。ガラパゴス化というのは日本市場で独自の進化を遂げた携帯電話を指す。孤立した環境で「最適化」が著しく進行すると、エリア外との互換性を失い、孤立して取り残されるのだ。日本の国会を半世紀見ているとそう感ずる。古い慣習や独特の「文化」に縛られて空気がよどんでいる。新しいことをやると、何かと「過去に慣例がない」と否定される。スタンディング・オベーションくらいで自民党が「反省猿」になって、どうする。若い小泉進次郎まで、自分で立ち上がっておきながら、「反対」では先が思いやられる。何でもっと素直に物事を受け取れないか、と言いたい。その上何でも政党間の争いのテーマにしたがる。しかも、事実関係をねじ曲げようとする。

 首相・安倍晋三が、領土を守る決意を述べたあと、海上保安庁、警察、自衛隊に「今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」と呼びかけた。事前の根回しもすんでいたと見えて、若手を中心にスタンディング・オベーションが行われた。これに対し野党の反応は「何でも政局化」の小沢一郎が「北朝鮮みたいだ」と述べれば、ガラパゴス国会の象亀のような民進党も、しめたとばかりに動いた。蓮舫は9月29日「与党のおごりでしかない。厳しく臨んでいきたい」と、なお追及の構えだ。朝日もうれしがって、天声人語で「同調圧力という言葉がある。空気を読んで周りの行動にあわせるよう、強いられることをいう」と、インテリ・イグアナのようにもっともらしくかみついた。「多くの職業のなか、なぜこの人たちだけをたたえるのか、釈然としない。あの場で議員たちは、気持ち悪いと思いながらも圧力を感じて起立したのだろうか。あるいは、ためらいや疑問もなく体が動いたのか」と反対世論をリードにかかった。

 しかし、民進党も自分のやったことを棚に上げてはいけない。2009年10月26日に臨時国会で、同様のスタンディング・オベーションが発生している。ネットテレビで見返したが、首相・鳩山由紀夫の演説に、当選したばかりの小沢チルドレンが興奮してスタンディング・オベーションをやっているではないか。なぜ自分の党の首相、しかも「ルーピー」で世界的に有名な首相には、立ち上がって拍手をしてもよくて、自衛隊員らには拍手してはいけないのか。朝日は天声人語でこのルーピーへの礼賛を「同調圧力」と批判したか。してないだろう。「多くの政治家の中でなぜルーピーだけをたたえるのか釈然としない」と書くべきだったのではないか。それとも社是で民進党ならやってもよくて、自衛隊礼賛はけしからんとなっているのか。安倍は9月29日の参院本会議で野党が「軍隊優先という考えが潜んでいるからではないか」と指摘したのに対して「所信表明演説では、困難な状況の中、国民のため、それぞれの現場において、厳しい任務を全うする海上保安庁、警察、自衛隊の諸君に対し、心からの敬意を表そうと申し上げたものだ。また、国民よりも、海上保安庁、警察、自衛隊が優先するなどという考えは、根本的に間違っているだけでなく、彼らの誇りを傷つけるものだ」と反論した。

至極もっともだ。安倍が音頭をとったのは、災害や、防衛で国のために命がけで働いている自衛隊員や警察官、海上保安官をたたえるためであり、天声人語の解釈のように、自らをたたえよと言ったわけではない。演説に感動してスタンディング・オベーションをやって何が悪い。慣習がないのなら作ればいいのだ。誰も気がついていないが、このスタンディング・オベーションからみても、安倍は1月解散・総選挙を意識しているフシがある。陸海空自衛隊員25万票、警察官28万票、海上保安官1万3千票の囲い込みだ。家族、友人の票をプラスすれば300万票はかるくいく。今後国会でスタンディング・オベーション批判が野党から出されるたびに、自民党へと票が流れる構図だ。それなのに自民党幹部が反省しては元も子もなくなる。馬鹿とは言わんが、利口ではない。安倍の読みは意外と深いのだ。選挙が近くなったら、どんどん職業別にスタンディング・オベーションをやればよい。これは冗談だ。
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