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2016-09-14 10:53

(連載2)「敵基地攻撃能力」の限界

角田 勝彦  団体役員、元大使
 韓国では与党セヌリ党の一部が、核兵器の保有を公然と訴えている。彼らは、そうすれば北朝鮮からの攻撃を抑止できるとともに、中国が北朝鮮に対して兵器計画の後退を迫る圧力を強めると考えているらしい。もし核開発に乗り出せば米国との関係が悪化することも覚悟の上らしい。核武装は問題外として、我が国でも自民党内で「敵基地攻撃能力」が必要との主張が相次いでいる。3月には今津寛党安全保障調査会長が「撃つ前にたたくことは、当然考えなければならない」と主張した。別の党会合でも大塚拓国防部会長らが言及した。4月には自民党国防部会で複数の議員が「検討すべき状況ではないか」と指摘した。政府は2013年の中期防衛力整備計画で「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方」に関し「検討の上、必要な措置を講ずる」と盛り込んだ。同計画は3年後の今年に見直す規定があり、自民党の議論を反映し、さらに踏み込む可能性もある。

 問題は、国是の「専守防衛」との関係である。1956年鳩山一郎内閣は「自衛権を持つ以上、座して死を待つのが憲法の趣旨ではない」との見解を示した。政府は憲法上「敵基地攻撃」は他国の攻撃を阻止する個別的自衛権の範囲内としてきた。ただし先に攻撃する「先制攻撃」と区別し、第一撃の攻撃を受けた後や燃料注入開始など日本攻撃に「着手した」と判断した段階で可能としている。ここで「敵基地攻撃能力」が問題になる。このために必要な巡航ミサイルや爆撃機などは保有しなかった。先制攻撃や自衛を超えた武力行使に使え、専守防衛を逸脱しかねないとされたからである。日米安保体制で敵基地攻撃能力は米軍に任せ、日本はミサイル防衛の整備を続けてきたのである。経費も少なく済んだ。

2016年3月7日、韓国各地で始まった米韓合同軍事演習は、米軍などの「敵基地攻撃能力」を立証するものと言えよう。 米韓将兵約32万人が参加し4月末まで約2カ月間にわたったこの軍事演習は、新作戦「5015」を適用していると言われる。従来の演習は、北朝鮮軍の韓国侵攻による全面戦争を想定していたが、昨年6月策定の「5015」は、核・ミサイル基地の動向を監視し、「先制攻撃」する可能性も想定に加えており、さらに北朝鮮首脳をターゲットとする「斬首計画」が含まれているとされる。 金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、必死にその「抑止力」建設に邁進している所以である。

 北朝鮮の基本的政策は、体制維持である。金正恩は自らの体制維持へ米国からの保証を取り付けたい考えである。最近の北朝鮮国内情勢から暴発の危険性は増大しているが、核ミサイルの脅威を過大に見て我が国の「専守防衛」路線を軽視するのは誤りであろう。そもそも我が国が、米国が北朝鮮に示威派遣する予定のB1爆撃機や原子力空母(「ロナルド・レーガン」)くらいの「敵基地攻撃能力」を保有することは、無理なのである。(おわり)
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