国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-08-18 10:52

ロシアの世論調査から見えてきた北方領土問題の行く末

飯島 一孝  ジャーナリスト
 安倍政権はロシアとの北方領土交渉に期待を寄せているが、最新のロシア世論調査で領土返還反対派が若干減ってきていることが分かった。その一方で、日露平和条約を締結し、日本との経済協力を推進するべきとの意見が徐々に増えていることも浮かび上がってきた。ロシアの中立系世論調査機関「レバダ・センター」が8月5日に公表した北方領土に関する世論調査によると、調査は5月27~30日に全国で18歳以上の男女800人を対象に、家庭での聞き取り調査方式で行われた。その結果、返還賛成派は7%、反対派が78%だった。賛成派は5年前の調査に比べ、3ポイントアップし、反対派は12ポイント下がった。

 また、プーチン大統領が日本に北方領土返還を決定した場合、大統領の支持率が上がるか、下がるかを質問したところ、「上がる」と答えた人は9%、「下がる」と答えた人は55%だった。12年前の調査と比べると、「上がる」と答えた人は2ポイントアップし、「下がる」と答えた人は5ポイント減っていた。「変わらない」と答えた人は23%で、前回調査より3ポイント増えている。つまり、支持率に大きな変動がないとの見方が増えているといえそうだ。

 その一方、日露平和条約締結の重要性については、「重要だ」と答えた人は48%にとどまり、7年前の調査より7ポイント減っている。逆に「重要でない」と答えた人は38%で、前回より8ポイント増えている。さらに、ロシアにとって今、日本と平和条約を締結して借款と技術の供与を受けるか、北方領土を返還しないで置くか、どちらが大事かを質問している。これに対し、21%が前者を選び、現状維持派は56%だった。同様の質問は1992年にも行われ、平和条約締結派は15%、現状維持派は66%だった。締結派が6ポイントアップしているのに対し、維持派は10ポイント減っている。つまり、事実上返還に反対する意見が減っていることがうかがえる。

 以上の結果から、北方領土を含む平和条約締結問題はロシアにとって、それほど重要な問題ではなくなり、プーチン大統領の支持率にも以前ほど影響しないとの見方が広がっているといえよう。もちろん、領土返還反対派が今も大勢を占めていることに変わりはないが、早く平和条約を結んで借款や技術協力を得たほうがいいとの実利派が徐々に増えていることも明確にであり、その意味は小さくない。プーチン大統領の訪日は年内に予定されており、実現すれば本格的な北方領土交渉が始まる可能性が高い。プーチン政権も世論の動向を一番気にしていて、今回の調査結果は領土交渉にも反映されるに違いない。その意味では、戦後71年目にしてやっと領土問題解決の展望が開けることも、考えられなくはない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム