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2016-08-10 22:41

天皇の「お気持ち」の衝撃

松井 啓  ワールドウオッチャー、元大使
 8月8日の天皇の「お気持ち」のビデオメッセージは私にとっては衝撃的であった。8月は6日広島への原爆投下、8日ソ連の対日参戦、9日長崎への原爆投下、15日戦争終結の「玉音放送」と、記憶すべき日が多い月である。東京都知事選が終わり、リオ・オリンピックが始まったこの時期に、天皇が象徴の務めを全うすることが困難になるとの「お気持ち」を吐露されたことの意味について、真剣に考えざるを得ない。

 平成天皇は選挙やご自身の意思で天皇になられたのではない。民間であれば定年、引退という引き際があるが、天皇の場合はご自身で決めることはできない。神格化された「現人神」ではない「人間天皇」に、最初からなられたのは平成天皇からである。日本国の象徴であると共に国民統合の象徴としての役割を果たすべく、全身全霊をもって国事行為や公務をお勤めになっておられるのに、それを当然視し、「自然人」である天皇の模索や苦悩に思い至らなかったことに対する自責の念に強く駆られた。

 日本の平和は第9条の「戦争の放棄」(あるいはそれと対となっている日米同盟)によって守られたとの説が多いが、第1条の「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴である」天皇の役割も大きいことは否めない。平成天皇には先の大戦の責任は全くないにも拘らず、沖縄を越え、アジア諸国やサイパン、パラオ等の戦地を慰霊したお姿及びそれを支える皇后の平和を祈念する真摯なお姿が、国際社会にアピールしたところが多いことを認識すべきである。皇位継承については今までも何度か検討されてきたが、問題点の指摘に留まり、喉元過ぎれば結論が先送りされてきた。しかし天皇も指摘なさっているように、高齢化は高速で進行しており、もう待ったなしの状況で、結論を先延ばしすることは許されない。平成天皇は昭和天皇崩御のあとの大喪の礼や1年間の喪に服することによる「社会の停滞や国民生活の影響」を自ら経験なさり(失われた30年の始まり)、ご自身の健康を含め「深刻な状態」になった時のことを懸念され、将来にわたって伝統がよどみなく行われるように整えておくべきことを示唆されておられる。

 皇位継承問題は国体(日本の国のかたち、あり方)、したがって憲法と切り離しては考えられない。他方この問題は党利党略、政争の具にされるべきではなく、マスコミはドラマ化することなく、国民一人一人が自分の問題として真剣に考え、議論できるような環境を整えていくことが望まれる。この問題は中国や韓国等のアジア諸国ばかりでなく、英国をはじめ王室を抱くヨーロッパ諸国も注目している様子である。戦後75年(2020年、平成32年、東京五輪年)を目途として国民的合意の達成に努力すべき時期に至っている。
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