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2007-03-22 10:14

もう一つの安保共同宣言

鍋嶋敬三  評論家
 日本とオーストラリアの安全保障協力に関する共同宣言(3月13日)はアジア・太平洋地域での地政学的関係に影響を及ぼすことになろう。防衛面だけでなく、安全保障、外交に至るまで広範な戦略的利益を強化するための包括的文書になった。日本が同盟国の米国以外とこの種の安保協力宣言に調印したのは初めてである。

 協力の分野は幅広い。核、ミサイル、拉致など北朝鮮問題、テロ対応、大量破壊兵器とその運搬手段の不拡散のほか、自衛隊と豪軍との訓練や人事交流など、実際的な協力もある。日米間と同様な外務、防衛閣僚による「2プラス2」も創設される。東ティモールへの国連平和維持活動(PKO)やイラクへ派遣された陸上自衛隊と治安維持に当たった豪軍との協力関係の実績の上に、安保協力の大きな枠組みができた。

 しかし、安保宣言が目指すさらに大きなものは「日米豪3カ国協力の強化」である。日米間も豪米間も同盟関係にある。安倍晋三首相はハワード首相との共同記者会見で、日豪間が強化されれば「3カ国の戦略的な協力関係が一層強化される」と語っている。3カ国は昨年3月シドニーで閣僚レベルの戦略対話を立ち上げた。アジア・太平洋地域での安全保障面の協力で合意、韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドとの協力の強化を目指すことになった。台頭する中国を意識した動きである。

 米韓同盟が在韓米軍の再編、削減を巡って揺らぎ始めた。米国防総省は中国を「米国と競い合える最大の潜在能力を持つ」として警戒を強めており、同盟関係の再定義の必要性が米国内で指摘されてきた。米国が中東の戦争にかまけている間にアジア・太平洋地域での地政学的な変化に十分な関心を払ってこなかったことへの反省がある。このような文脈での日米豪の安保協力の強化ととらえるべきであろう。昨年暮れの米豪閣僚協議では日本を含めた3カ国の防衛協力の可能性を探ることになった。

 ハワード首相は安保共同宣言について「この地域の誰に対しても敵対する意図を持つものではなく、中国もこの宣言を敵対的とみなすべきではない」と述べ、中国との密接な関係を強調した。一方、安倍、ハワード両首相とも民主主義の価値を共有するインドと対話を強める意向を示した。東アジア共同体構想を巡って日本はオーストラリアやインドを含めた16カ国体制を進めている。日豪の安全保障協力の宣言はオーストラリアを挟んで太平洋からインド洋へと広がる契機となり得る意味を包含している。
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