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2016-07-11 08:02

改憲派2/3超の歴史的圧勝

杉浦 正章  政治評論家
 27年ぶりの単独過半数には届かなかっものの、自民党などの改憲勢力が戦後初めて憲法改正を発議できる3分の2議席を突破した。これはどう見ても自民党にとって歴史的圧勝であろう。紛れもなくアベノミクスの勝利であり、同時に3年3か月にわたり大失政を繰り返した民主党政権に対するアレルギーが依然根強いことを物語っている。首相・安倍晋三は改憲を選挙の争点にしないまま、改憲に向けての“通行手形”を獲得したが、「短兵急にやるものではない」と、いきなり「9条改定」に取り組むことはない方針を明らかにした。政権はアベノミクスの仕上げに全力を傾注することになろう。民進・共産の野党共闘は一定の成果を上げており、今後総選挙に向けて共闘が持続する可能性は高い。内閣改造は8月にも断行されるだろう。自民党単独での過半数には辛うじて届かなかったが、改憲派での3分の2達成は驚きの結果であろう。安倍は選挙期間中一切改憲には言及せず、自民党も公約には目立たないように掲げ、あえて論争を避けた。自民党の基本戦略はアベノミクスの推進と民共共闘の批判に集中させ、この“2点集中戦略”が奏功した。「改憲を前面に出せば必ず票は減る」という読みが前提にあったが、これは戦略としては成功した。朝日が11日付社説で「後出し改憲に信はない」と歯ぎしりして悔しがっているが、野党も肩透かしを食らって、改憲批判ものれんに腕押しにとどまった。

 NHKの出口調査では、アベノミクスを大いに評価が8%、ある程度評価が48%で、合計56%が支持していたことが判明、比例区での投票先の57%が自民党であった。やはり事実上の完全雇用と大企業、中小企業の利益が史上最高という現実が、野党の批判するGDPの不振よりも大きく作用したものとみられる。加えて、選挙冒頭までは躍進基調であった共産党の幹部が、防衛予算を「人殺し予算」と形容したことをきっかけに、勢いをそがれた事が、改憲3分の2に大きく作用した可能性がある。6月26日の発言後7月上旬の産経の調査では、5.7あった共産党支持率が4.5%に急落している。数字は小さいが躍進していた政党が22%の支持率減少となったのは痛い。発言がなかったら3分の2は阻止できていた可能性がある。共産党の目標議席は比例区9議席であったが、比例区、選挙区合計で6議席にとどまった。前回の8議席にも及ばなかった。早くも共産党の躍進に限界が見えてきた。それでも民進党が、前回の参院選1人区では2議席しか取れず、共闘が実現する前の情勢では数議席しか自民党と互角の勝負が出来ない、と予想されていたにもかかわらず、11議席を獲得出来たことは、一定の共闘効果があったことを物語る。

 代表・岡田克也は地元の三重で負けたら責任をとる旨発言した。これは三重選挙区候補の選挙を自らの選挙ににしてしまって当選させるという、苦肉の策だが、結果的には成功した。それでも党内は9月の代表選に向けて、混乱が続きそうだ。一方、共産党委員長・志位和夫は「バラバラだったらもっと厳しい結果となっていた。衆院でも持続していきたい」と共闘持続を表明した。岡田は党内右派を念頭に共闘への明言を避けているが、結局独自の戦いでは党勢が弱すぎて勝負にならないことから、衆院でも共闘に乗らざるを得ないものとみられる。共産党は庇を貸して母屋を取る戦略だ。改憲勢力3分の2議席を得た安倍は、「9条改憲」に関しては極めて慎重な姿勢を鮮明にさせた。「この選挙では憲法改正の是非が問われたわけではない」と、正直に争点化を避けたことを認め、「今後憲法審査会で議論し、国民的理解が深まる中で、改正する条文が収れんしてゆくことを期待したい」と述べた。これは国論を2分する上に、国民投票で敗れれば政局に直結する「9条改憲」を当面は“主導”しないことを明らかにしたものだ。野党とりわけ第1党の民進党を論議に引き込みつつ、当面は対決姿勢でなく、与野党合意のもとで改憲の方向を探ってゆく方針なのであろう。

 改憲勢力が衆参両院で3分の2議席を獲得したことにより、安倍は内政外交でおごらず、重心を低くして「勝って兜(兜)の緒(お)を締めよ」の長期政権路線を行くだろう。自民党総裁の任期も「2期6年まで」を「3期9年まで」に延ばす動きが出てくるだろう。国政選挙に4回連続して圧勝した首相は希有の存在であり、国会議員や党員を問わず、延長に異論は出にくいだろう。アベノミクスはまさにこれからが正念場である。安倍は選挙結果について「アベノミクスを力強く前に進めよ、というのが国民の声」と言明した。大型補正など大胆な財政出動も不可避の経済情勢となっている。自民党内では10兆円規模の補正予算を求める声が強い。さらに中国、北朝鮮という軍国主義国家に隣接して、一触即発の状態が長期に続くことも予想される。外交・安保では気の抜けない状況が続く。自民党の圧勝で公明党との関係は一層強化されるだろう。公明党票あっての自民党躍進の構図は衆院選挙でも変わりようがないからだ。内閣改造は官房長官・菅義偉と財務相・麻生太郎の処遇が焦点となるが、とりわけ菅は余人を持って代えがたき仕事をしており、余人に代えては内閣がバランスを失って失速しかねない。まだ当分代えない方が得策と思える。
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