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2016-06-14 06:50

安保法破棄では「侵入」に対処できぬ

杉浦 正章  政治評論家
「気を付けよう、甘い言葉と民進党」と首相・安倍晋三が、挑発すれば、民進党代表・岡田克也はかっとなって「まるで非合法政党だ。遺憾である」と反撃。水銀柱の上昇と正比例するかのように選挙戦がヒートアップしてきた。自公は専らアベノミクスと安全保障に的を絞り、野党はこれに応じては状況不利と「憲法改悪」を攻撃の足がかりにする。しかし改憲は自公に具体的な動きがなく、民進・共産の主張も「参院で与党に3分の2取らせたら改憲」と前提条件が付き、机上の空論の空振りになりがちだ。逆に与党は今そこにある安保の危機と、アベノミクスの実績という現実論で勝負しようとしている。机上の空論対現実論の戦いであり、論戦は7対3で与党に有利に展開と見る。一方舛添問題は、自公が都議会で辞任に直結する不信任案を出しかねない辞任必至の状況にいたり、参院選での論点には、なりにくい情勢だ。

 奇妙なことに共産党と社民党、朝日新聞の三者の見方が安倍の選挙姿勢批判で一致している。共産党委員長・志位和夫は「安倍首相は選挙戦をアベノミクス一本で戦い、選挙が終わると憲法を破壊する政治を繰り返した。これを2度行った。私たちは3度目は通用しないとはっきり言いたい」と指摘した。3年前の参院選後に秘密保護法を強行、1年半前の衆院選後に安保法制を実現させ、今度は改憲だと訴える。朝日も「選挙が終わると、世論に左右されることなく持論の政策にアクセルを踏む。逆に、選挙が近づくと新たな経済政策を前面に打ち出す。首相は、こうした安倍政治の『二つの顔』を第2次政権の発足から繰り返し使い分けてきた」と批判。社民党幹事長の又市征治もNHKで朝日の請け売り発言をしていた。期せずしてか、図りに図ってか、左翼政党と左傾化言論機関が一致した。岡田も「安倍首相のねらいは憲法改正だ」と指摘したうえで、「アベノミクスによる争点隠しは認められない」と、何が何でも「安倍イコール改憲」に結びつけたい姿勢だ。しかし、安倍が2年あまりの残る任期で、国会の憲法調査会が具体化への議論も全く進めていない改憲を一挙に推進できるかと言えば、まさに机上の空論であり、無理なのだ。

 この「アベノミクスが改憲の争点隠し」という主張は、いみじくも経済論争では民進党不利という姿勢が滲み出ている。「争点隠し」というのは、アベノミクスの効果を認めていなければ出ない言葉だ。野党はアベノミクスに対しては、大企業も中小企業も収益が過去最高、有効求人倍率は全国で1を超えるという新記録、3年半で21兆円の税収増という数字に対抗する有効手段が見当たらないからだ。民主党選挙対策委員長・玄葉光一郎は「民主党時代のGDPの高さ」を指摘するが、デフレ要因がGDPの大半を占めていたのだから主張に無理がある。国民はGDPより就職の機会であり、景気の上昇だ。やがて実質賃金にも反映してくるから、希望を持てるのである。どの政党も自分の政策の成果で選挙戦を戦うのであり、自民党がアベノミクスを前面に出すことは不自然ではない。民主党が党内の政策はバラバラのまま、ただただ「消えた年金」だけを主張、政権に就いたのと同じだ。

 とりわけクローズアップしてきているのは安保論争だ。民進と共産の共闘は、安保法破棄の一点だけで一致しており、両党ともこれで市民運動を盛り上げ選挙を有利に運ぼうとしているが、それが可能だろうか。繰り返される北朝鮮の核とミサイルの実験、南シナ海のスカボロー礁をめぐる米中の激突含みの対峙。これに新たに加わったのが、中国フリゲート艦の接続水域侵入による東シナ海での日中激突の危機だ。玄葉は接続水域侵入について「我々もしっかり対応する。対応力は強化する」と言明したが、安保法を破棄して、対応力が強化できるのか。安保法による日米防衛協力の強化は北にも中国にも大きな抑止力として働いているのである。民主党政権の漁船衝突事件におけるうろたえぶりからみて、現在も民主党政権が続いていれば、中国艦船はとっくに接続水域を越えて領海に入っていただろうと思う。安保法は東・南シナ海の緊迫に辛うじて間に合ったのであり、これを破棄して国の安全が確保出来るかということだ。民共は60年安保破棄党争に匹敵する愚挙を臆面もなく前面に出しているのだ。

 安保法破棄だけで一致する民共選挙協力は、まさに自民党選対委員長・茂木敏充が「野合」と指摘するとおりで、他の政策での一致が見られないままだ。共産党書記局長・小池晃は野合批判について「市民の求める共闘が野合のはずはない」と断定しているが、一体共産党の言う市民とは誰か。共産党の支持率1.4%(時事)が市民か。指導者たるもの用語の使い方に気をつけた方がいい。こうしてアベノミクスでは不利、安保論争でも不利な民共共闘が、ただ一つのより所とするのが、「憲法改悪」という構図だ。「仮定の論議」に警告を発しても説得力はない。茂木が「野党は対案を出して論議すべきだ」と指摘するのは、そのとおりだ。自民党改憲案を否定するなら、堂々と対案を提示すべきである。それがなければ「ケチを付ける」だけと言うことになる。
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