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2016-06-10 10:31

G7効果、EUに海洋安保危機感広がる

鍋嶋 敬三  評論家
 中国が「本性を現した」と言うべきか。東シナ海の尖閣諸島(沖縄県)の領海外側の接続水域に6月9日未明、中国軍艦1隻が初めて侵入した。海上自衛隊護衛艦の無線警告を無視して入った。外務省が中国大使を午前2時に呼び出して抗議したのは当然である。ロシアの軍艦3隻もほぼ同じころ入域した。中国は尖閣諸島への領土主権を主張し、海警(coast guard)の日本領海、接続水域への侵入を繰り返しているが、軍艦が侵入したことはなかった。中国による軍事的緊張のエスカレーションは東アジア情勢に悪影響をもたらすものだ。東シナ海では米偵察機に対する中国軍機の異常接近を米太平洋軍が6月7日に発表したばかりだ。南シナ海では5月に米海軍機に中国軍戦闘機2機が急接近した。2014年には米軍機に対し中国機が6㍍の至近距離を飛行、空中衝突の危険があった。2001年には実際に衝突し、米偵察機が中国南部の海南島に不時着する事件が起きた。

 尖閣諸島に2012年8月、香港の活動家が不法上陸したが、当時の民主党・野田佳彦政権は裁判にかけずに、強制送還し、中国の要求する「無条件釈放」がまかり通った。東シナ海問題は「南シナ海と同根」と当時の小論(百花斉放No.2384)で指摘した。安倍晋三政権になってからも、中国海警による領海侵犯が続くが、中国はことあるごとに主権維持に対する日本の意思を試し続けるだろう。1週間前にも論じたように、海上保安体制、防衛力、日米同盟の強化が不可欠である(百花斉放No.3589「東シナ海を南シナ海にしてはならない」)。6月初め、シンガポールで開催された恒例のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)では、南シナ海をめぐる米中対決が際立った。それに続く北京での米中戦略・経済対話は金融、投資分野で一定の前進はあったものの、南シナ海問題は物別れに終わり、米中間の溝の深さを印象付けただけである。

 シャングリラ対話で注目されたのが、フランスのルドリアン国防相が欧州連合(EU)各国に対して南シナ海の公海に海軍艦艇を派遣し、定期的な航行を呼び掛けたことだ。EUも航行の自由によって経済的利益を受けている以上、懸念が深まる南シナ海で各国が目に見える形で海軍のプレゼンスを確保するため協調する必要を訴えたのである。フランスはオーストラリアの次期潜水艦調達計画(4兆円)で日本に競り勝った。海軍のステルス・フリゲート艦が5月フィリピンに寄港、アジア太平洋での存在感を高めている。英国もファロン国防相が東南アジアで軍事的存在を強める姿勢を示した。同国防相と中谷元防衛相は5日、シンガポールで会談、東南アジア各国への海軍支援協力で一致した。秋には日英間の戦闘機共同訓練計画もある。

 これら仏英の動きは、主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)における東シナ海、南シナ海情勢に対する懸念の表明、海洋安全保障に関する首脳宣言の効果が表れたと見るべきであろう。シンガポールのストレーツ・タイムズ紙の欧州特派員は分析記事でフランスの提案について、欧州から遠い「南シナ海問題が欧州自身の安全保障に影響する」として、欧州側の考え方に「変化が現れた」と注目、具体的な行動への期待感も示した。東シナ海情勢と南シナ海問題は不即不離の関係にある。それは習近平政権が「一帯一路」世界戦略の成功のためには、この両海域での軍事的優勢の確保が不可欠と考えているからに外ならない。中国による軍事的エスカレーションとその正当性を主張する外交活動はますます強まろう。日本政府は中国の危険な賭を7月15、16日、モンゴルで開かれるアジア欧州会議(ASEM)の首脳会議でも積極的に取り上げ、G7宣言への国際的な理解を広げる努力を傾注すべきである。
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