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2016-05-26 10:15

中国にらむアジア外交の急展開

鍋嶋 敬三  評論家
 主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)の開幕(5月26日)を前に、東アジアを舞台に中国を念頭にした活発な外交が展開された。米国による対ベトナム武器禁輸の全面解除、台湾独立志向が強い民進党の新総統就任、フィリピンの政権交代、そしてミャンマーへの米国務長官の訪問である。一連の動きは領土的野心を隠さない中国をにらんだ思惑が絡む。特にフィリピンと台湾の新政権の動向は東シナ海、南シナ海情勢に影響を与えるものとして目が離せない。オバマ米大統領はサミット前夜の日米首脳会談後の記者会見で、南シナ海の紛争は平和的に解決すべきで「中国次第」との考えを表明した。G7首脳宣言で国際法に則った海洋の安全保障を明確に打ち出すことを期待したい。対ベトナム武器禁輸解除は同国を訪問中のオバマ大統領が5月23日、自ら発表した。米国の狙いは対中けん制である。最大の海軍基地カムラン湾への寄港、随時利用も視野に入る。既に日本の護衛艦が2度寄港、日越防衛協力の実績を積み上げている。オバマ氏は人権問題で注文を付けるのを忘れてはいないが、南シナ海に面するベトナムの戦略的価値はますます高まっている。

 米国はフィリピンとは対中強硬路線の現アキノ政権下で「拡大防衛協力協定(EDCA)」を結び、同国への米軍展開に道を開いた。6月30日に就任するドゥテルテ次期大統領は選挙戦中から言動が一貫せず懸念材料だ。アキノ政権は南シナ海で中国と争う領土主権の問題をハーグの国際仲裁裁判所に提訴、近く決定が出されるとみられる。ドゥテルテ氏は中国がフィリピンの鉄道建設や紛争地域の資源共同探査に合意するなら、フィリピンの主張を棚上げすることも示唆していた。対中駆け引きの戦術なのか、米国との防衛協力を有利に進めるためのアイデアかもしれないが、中国の術中にはまる恐れもある。同氏はオバマ氏との電話会談で「この(南シナ海)問題で西側と連携する」と述べる一方、「前に進まなければ、二国間交渉の選択もある」とほのめかしたといわれる。オバマ氏からは「ハーグの裁判所の決定を待つように」と忠告されたことも明らかにした。ドゥテルテ氏は閣僚人事では共産党員4人を起用、クラスメートなど狭い交友関係から選んでいるなど「行き当たりばったり」の批判が側近からもあるとされ、政治、外交の姿勢と力量は未知数で懸念も指摘される。

 台湾の蔡英文総統は5月20日の就任演説で「台湾独立」「一つの中国」をともに封印し、対中外交で慎重さが目立った。国民党の馬英九前総統とは異なり、親日的で2015年10月には訪日、安倍晋三政権との人脈作りに着手した。元行政院長(首相)を対日窓口の亜東関係協会の駐日代表(大使)に起用、5月23日には早くも日本と「海洋協力協議の新たな枠組み」の設置で合意。対中接近の前政権とは明確に異なる姿勢を示している。これは米国へのメッセージでもある。台湾海峡は朝鮮半島と並ぶ東アジアの「発火点」であり、中国の圧力に耐えるには、台湾防衛のための台湾関係法を持つ米国との関係強化は必須の課題である。

 米国防総省は5月13日、議会への年次報告書「中国の軍事力2016」を公表した。デンマーク国防副次官補(東アジア担当)は中国の長期的傾向として(1)南シナ海での攻撃的な海洋活動、(2)アフリカのジブチでの軍事基地設置に見られる世界的な軍事的存在の拡大、(3)大規模な軍事改革による人民解放軍の能力強化、を挙げた。米国の対中アプローチとしてリスクの減少、共通の見解の拡大、米国の軍事的優勢の維持を柱に挙げたが、習近平指導部の動向を踏まえれば、米中の軍事的対立が激化するリスクは高まってくると見なければならない。南シナ海上空での米偵察機に対する中国戦闘機2機による異常接近事件(5月17日)で兆候は現れている。
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