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2016-04-28 06:44

日中韓が“反トランプ”で3国同盟?

杉浦 正章  政治評論家
 とかくいさかいを起こしがちな日中韓3国だが、最近ただ一点で共通項が出来てきた。米共和党のトランプ候補への反感の高まりである。元祖・ヘイトスピーチともいうべきトランプの差別扇動発言が極東に向いてきたからだ。最初は笑って聞き過ごしてきた3国も、ひょっとするとひょっとすると思い始めたのかも知れない。とりわけ中韓両国からは強い反論が出始めており、“トランプ大統領”になったら“反トランプ3国同盟”が出来そうだというジョークまである。トランプ流に暴言を吐くなら「3国同盟を作ってアメリカを潰してしまう」ということになる。大衆催眠術にかかっている米国有権者は気をつけた方がいい。早く目覚めるべきだ。最近、流行っている論考が「トランプになっても大丈夫」説だ。レーガンは大統領選挙中に、「中国と断交して、台湾と国交を持つ」と公言していたが、就任後中国との良好な関係を構築したという見方だ。だからトランプも政権に就けば変わるというのだが、ちょっと違うような気がする。レーガンは俳優出身だが、もともとバランス感覚は抜群であり、狂犬病の“かみつき犬”のようなトランプとは根本的に違う。

 米政治学者・ジェラルド・カーティスは「共和党はトランプが本選に進出したら外交専門家をつけるだろう。プロのスタッフも送り込む」とテレビで述べているが、果たして効果が出るだろうか。かみつき犬はかみつき犬であり、スタッフの隙を見てかみつくのだ。ホワイトハウスは何をするか分からない大統領を、8年間24時間見張っていなければならないことになる。核兵器のボタンを押す大統領が、狂ってボタンを押したら、すべてはおしまいだ。そのかみつかれ先は最近極東3国だが、日韓に対しては安保ただ乗り論と、核武装の勧めだ。韓国の核武装について「朝鮮日報」は次期在韓米軍司令官・ビンセント・ブルックスによる上院軍事委員会での証言を掲載した。「米国の核の傘がなくなれば、韓国は自国の安全と独立を守る為に核武装しなければならなくなる」との発言だ。コラムでは「衝撃的なほど無知な外交政策」と酷評している。

 またブルックスは安保ただ乗り論について、韓国が人件費だけで890億円負担していることを明らかにして「韓国に駐留しているのと同じ規模の軍隊が米国に駐屯したら、より多くの費用が必要となる」と言明した。いわば安保ただ乗り論を裏返せば「米軍による経費ただ乗り論」であり、日本でも全く通用する話だ。日本の負担は「思いやり予算」として今後5年間に9465億円を払う約束をしている。年間1848億円であるが、それとは別に基地周辺対策費、施設の借料、土地の賃料などを加えると、年間なんと6710億円の支払いとなる。ちょっとアバウトだが、トランプでも分かるように四捨五入すれば年間1兆円だ。米軍が世界一の規模を維持出来るのは、この「経費ただ乗り」があるからに他ならない。まさにトランプは安保でも「衝撃的な無知」を地でいっているのだ。

 カーチスは「トランプが大統領になっても、対日政策は変更させないが、中国の方が大変だ」と述べているが、その中国はというと、確かに大変だ。トランプは「北朝鮮問題を解決しなければ、中国を潰してしまえ」と発言したが、「環球時報」は「トランプ氏の当選は大規模テロに匹敵する」と酷評した。読者は「頭のおかしいヤツに大統領になって欲しい。米国への罰だ」と反応している。さらにトランプは「大統領に就任した初日に中国を為替操作国に認定する」「中国製品に45%の関税をかける」などと致命的な経済制裁に言及した。これに対しては財政相・楼継がトランプを「非理性的なタイプ」と批判し「米中は相互に依存していることを認識すべきだ。両国の景気サイクルはつながっている」と警告した。「環球時報」は「世界経済の毒針だ」とうまい表現を使った。日本の経済攻勢批判に到っては、まさに時代錯誤の極みだ。年を取ってぼけてくると若い頃うけた強烈な印象で物を言う癖がつくが、日本のバブル時代にトランプは自ら狙いをつけたニューヨークの数々の不動産を、日本企業に横取りされた原体験が忘れられないと見える。日米貿易摩擦時代の視点で物事を見ている。1970年代から90年代にいたる日米摩擦を今語っているのだ。今や日本車は米国内生産だ。3国ともヒラリーが大統領に当選して欲しいという空気でも共通している。

 こうした中で、米国で絶えないのが、そのヒラリーがトランプを擁立したという途方もない臆測だ。タブロイド版ではなく、ワシントンポストやBBC、CNNなど大手マスコミが昨年からことあるごとにこの陰謀説を報じている。もともとトランプはクリントン夫妻とも親交を重ねてきており、ビル・クリントンとはゴルフを共にする仲だ。そこからクリントンがトランプをおだて上げ、共和党から出馬させて、同党を大混乱に落とし入れるという説がまことしやかに語られている。いわばクリントンがトランプをトロイの木馬に仕立て上げたという説だ。よくできた話だが、ことは筋書き通りに運んでいるから面白い。結局民主党は、クリントンが候補になることが確定的となった。共和党はトランプ優位であるものの、指名獲得に必要な全米の代議員過半数1237人に到達するには、テッド・クルーズとの接戦が予想される5月3日のインディアナ州予備選などでの勝利が必要とされている。とにかくこんなに面白くてスリルのある大統領選はかつて見たことがないが、結局は米国の良識が勝つだろう。本選挙の動向予測の世論調査では依然としてクリントンの方がトランプより強い。
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