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2016-04-14 06:43

補選ごときがダブルを左右するという噴飯論議

杉浦 正章  政治評論家
 確かに政治に大きな影響を与えた補選が過去に2度ある。いずれも政権が打ち出した消費増税が原因だ。まずは何と言っても岩手参院補選ショックだ。1987年3月、前年のダブル選挙圧勝に勢いづいた中曽根康弘が打ち出した売上税に対する反対運動が盛り上がる中で、補選が行われ、反対を掲げた社会党候補が圧勝した。89年2月の参院福岡補選では、有権者が当時の竹下登が進めていた「消費税導入」に嫌気して、社会党候補が自民党候補に完勝した。中曽根も竹下も程なく退陣している。たしかに補選が政治に影響を与えるケースは多いが、今回の北海道5区の衆院補選が、一部新聞の書き立てるほどの影響を持つかと言うと、ちょっと違うような気がする。今回は補選が大局を左右することは少ないと思う。とかく政治記者は短絡的に政局の動向を断ずる傾向がある。駆け出しほどそうだ。駆け出しは、読みが出来ないから、記事より自己顕示欲が先行して、考えないで突っ走る。今回も補選に勝てばダブル選挙、負ければ参院シングル選挙という判断が、一部政治部の弱い報道機関から出されているが、強いところはさすがにそう断じてはいない。読売も朝日も決定的な表現を避けている。そもそも「解散様」は一番偉いのであり、補選が如きに左右されてはならないのだ。


 地方の一選挙区が中央政治のすべてを左右する構図はいけないのだ。だいいち誰も分かっていないが、5区で万一自民党が破れても、大接戦だ。ダブルを断行すれば、相乗効果で3か月で議席を奪還できる。もっとも補選に負ければ、新聞の論調を首相・安倍晋三が逆に“活用”して、いったんダブルのムードを抑える可能性はある。そうしておいて、サミット後に解散断行を宣言するのだ。中曽根がやった「死んだふり解散・ダブル選挙」だ。アナウンスメント効果を狙うなら、これだ。憎らしいことに中曽根は後で「定数是正の周知期間があるから解散は無理だと思わせた。死んだふりをした」と得意満面で語ったものだ。補選に負ける話ばかりをしているが、接戦でせり勝つという分析もある。安倍は補選候補を勢いづかせるために、「消費税延期か、凍結」の判断を先送りせずに、いま行ってしまう選択もある。方向は定まっているのであり、断言でなくても、事実上延期の感じでもいい。安倍がこれを打ち出せば、追い風になることは間違いない。しかし中途半端な表現でなく、新聞のトップを狙う表現でなければならない。4月20日に予定されている党首討論あたりの“活用”がいいかもしれない。

 勝った場合は、ダブルへの流れは決定的になってゆくだろう。負けた場合でも、政治状況を展望すれば、これを補える要素は腐るほどある。だいいちに安倍の支持率が50%前後と驚異的に高い。竹下の場合は1989年には3%まで下がった。中曽根も売上税で下がったが、断念して上昇した。さらに、消費増税延期・凍結を歓迎しない国民はいない。野党は民進党が“ハムレットの悩み”でもたもたしており、絶好の選挙用の材料だ。加えて外交だ。ここに来て“神風”が吹き出した。それはオバマの広島訪問が一段と現実味を帯びる流れとなってきていることだ。実現すればプラハの核兵器廃絶演説に勝るとも劣らない演説をしようとしているに決まっている。これは歴代自民党政権が維持し、いまや国是となっている「もたず、つくらず、もちこませず」の非核3原則にもマッチする。日米首脳協調の核廃絶宣言は、ダブル選に向けて野党の顔色を失わせる絶好の材料となる。

 加えて、サミットでは景気対策が主眼となる。大きな世界的な潮流は、中国など新興国の不振をG7が一致して財政出動することにより回復しようという方向であり、議長国として安倍はこの方向に棹さすわけにはいかない。既に実施に移った予算の前倒しに加えて、消費税延期・凍結と10兆円規模の補正を秋に実現する流れを作れば、景気に大きなプラスとなるだろう。ただでさえアベノミクスを契機に事実上の完全雇用が達成され、企業の収益大好調の状況がある。補選に負けようが勝とうが、小さい小さい。大状況は安倍にとって有利なものばかりだ。こうした潮流に警戒の色を隠さないのが野党だ。共産党書記局長・小池晃は、正直にも本心を吐露している。「衆参同日選挙なんてあまりにも邪道過ぎる。今回の補選の結果がこうした無謀な企てを止めさせる方に動く結果となる」のだそうだ。民共選挙協力を分断されるダブルが「怖い怖い」と言っているのだ。また民進党も幹部が「衆参ダブル選挙になれば野党の協力は分断される。補選に勝ちダブルを阻止したい」とこれまた正直に述べている。いずれもダブルだけはしないでくれと嘆願しているようでもある。嘆願されても安倍は許さないことが大事だ。
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