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2016-03-31 17:01

(連載1)アメリカ大統領選挙での外交政策チーム

河村 洋  外交評論家
 外交政策チームの質と量は、各候補者が世界におけるアメリカの役割をどのように考えているのかを示す指標である。チーム・メンバーたちの顔ぶれを見れば、どの候補者が大統領職に対して準備がよく整っているかがわかる。この観点から言えば、共和党のドナルド・トランプ候補が外交政策について問われた際に「私は何をおいても自分自身に問いかけることにしている。というのも、私の頭脳は非常に優秀だからだ」と答えたことは、馬鹿丸出しの自信過剰である。しかし、ライバルのテッド・クルーズ上院議員が3月17日に自身の外交政策チームを公表すると、数日後の21日にはトランプ氏もこれに続いた。上記の観点から、各候補者の政策顧問チームについて述べてみたい。

 まずヒラリー・クリントン氏の外交顧問チームは質量の両面において他の候補者を圧倒している。クリントン氏は2007年に新アメリカ安全保障センター(CNAS)の設立に当たって来賓として記念演説を行なっている。CNASはオバマ政権への人材供給源となり、その中でも共同設立者のミシェル・フロノイ氏とカート・キャンベル氏がよく知られている。さらにクリントン氏はファースト・レディ、上院議員、国務長官の経験を通じて、外交政策および国家安全保障のコミュニティーの間に広範な人脈を築いている。クリントン氏の外交政策チームは、規模のうえでも政策分野の広さのうえでも他の候補よりも断然優位に立っている。チームを主導しているのはクリントン氏が長官在任中に国務省で政策を担ったジェイク・サリバン氏とローラ・ローゼンバーガー氏である。そのうえにレオン・パネッタ元CIA長官および国防長官、トム・ドニロン元国家安全保障担当大統領補佐官、マデレーン・オルブライト元国務長官、そしてミシェル・フロノイ国防次官らの重鎮もクリントン氏のチームと連携している。バーニー・サンダース上院議員はローレンス・コーブ氏、レイ・タケイ氏、タマラ・コフマン・リッツ氏らの著名な中東専門家たちと会談して、外交政策での自らの弱点を補おうとしたというが、彼らはいずれもクリントン氏とつながっている。

 さらに、クリントン氏は共和党の外交政策で指導的な立場の人々とも深い関係にあり、特にそれは自らの国務長官就任に当たってヘンリー・キッシンジャー氏からの支持を得たことに顕著に表れている。湾岸戦争以来、民主党はサダム・フセインを排除すべきだとの見解を共和党と共有していたのであって、クリントン政権はアメリカ新世紀プロジェクトが主張したイラクのレジーム・チェンジという案さえも受容していた。ブッシュ政権はこれに沿って行動したに過ぎない。この点を反映するかのように、共和党の国家安全保障政策の中核からは、トランプ氏がイラク戦争、リビア、イスラエル・パレスチナ紛争、ロシアに対して非介入主義を掲げることに強い異議の声が挙がっている。外交政策に関する限り民主・共和両党とも共通の見識があり、両党とも極度に偏向した非正統派の自党候補者よりも正統派の他党候補者の方が受け入れやすい。共和党非主流派でもランド・ポール上院議員のように、リバータリアンの思想から受け入れられない水責め拷問やメキシコとの国境での壁の建設を主張するトランプ氏よりも、クリントン氏の方が好ましいと考える者もいる。多くの共和党員にとって、クリントン氏の方がトランプ氏よりはるかに好ましいのである。

 実際に保守派からも、ハドソン研究所のブライアン・マグラス氏のように「クリントン氏の外交および国防政策を信頼する」との声が挙がっている。特にネオコンの間からはロバート・ケーガン氏やマックス・ブート氏のように「トランプ氏よりもクリントン氏を支持する」との声が公然と挙がっている。さらに言えば、ブッシュ政権期の元高官たちはディック・チェイニー氏からコンドリーザ・ライス氏にいたるまでが、クリントン氏を国務長官として好意的に評価していた。リベラル・タカ派と目されるクリントン氏は、ワシントン政界における民主・共和両党の頭脳集団の支持を独占しているのである。(つづく)
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