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2016-03-10 06:02

朝鮮半島に火薬のにおいが充満

杉浦 正章  政治評論家
 朝鮮王朝の統治理念として用いられた儒教の学問体系・朱子学について、司馬遼太郎が的確な指摘をしている。「朱子学というのは、大義名分を論じ始めると、カミソリのような薄刃を研ぎにといで、自傷症のように自らを傷つけ、 他を傷つけたりもするイデオロギーだ」というのだ。最近の北朝鮮の“舌戦”とその“口撃”ぶりを見ていると、まさにまず論戦で勝つという儒教の影響を受けた、朝鮮民族の特性を見事に言い当てていることが分かる。労働新聞が韓国大統領・朴槿恵を「老いぼれの気の狂った雌犬」。オバマを「戦争怪獣」と表現するといった具合だ。しかし、事が「核兵器の先制攻撃」に及んでは、ただならぬ様相としか言いようがない。中国外相・王毅が「朝鮮半島に一触即発で火薬のにおいが充満している」と述べる状態なのだ。折から米韓両軍はオーストラリアやニュージランドも交えて、史上最大の軍事演習を韓国で展開している。展開していると言っても、その大半は場所すら公表せずに実施しているのだ。

 演習の内容は、(1)南北が戦争に突入した場合を想定したもの、(2)北朝鮮の崩壊を想定したもの、(3)核基地を先制攻撃して無力化するもの、(4)「斬首作戦」に分けられる。「斬首作戦」とは言うまでもなく、金正恩の首をはねるという物騒なものであり、米韓両軍の特殊部隊が金王朝の建造物の建物まで想定して、実戦さながらの演習をしている。ビンラディンを殺害した米海軍の特殊部隊Navy SEALsが、今度は独裁者・金正恩の寝首をかく演習をしているのだ。それも作戦開始から30分で殺害する作戦だという。明らかに金の気弱な性格を見抜いた上での心理作戦である。これを伝え聞いた金正恩が、震え上がったのか、天才バカボンの拳銃を発射しまくる巡査のごとくわめき始めた。3月9日には「核弾頭を軽量化し、弾道ロケットに適した標準化、規格化を実現した」と発言した。また「国家防衛のために実戦配備した核弾頭を任意の瞬間に発射できるよう常に準備しなければならない」と核ミサイル配備を公言。さらには「核弾頭をいつでも発射出来るよう準備する。軍事対応を先制攻撃的な方式にすべて転換する」と、何と核兵器による先制攻撃にまでけん制が及んだのだ。米ソ冷戦時にも見られない発言だが、このような発言は相手国の核先制攻撃を招くから、普通の国はしないが、ど素人が指導者の国はする。

 これが儒教の“口撃”にとどまるのか、本気なのかは、誰も分からない。ただ北に狂気の指導者がいて、「やるぞ、やるぞ」と危険極まりない発言を繰り返していることは事実だ。普段なら見過ごすが、4月いっぱい続く「史上最大の演習」の最中である。恐ろしいのは、金の発言に対して米国務省報道官・カービーが「これらの威嚇を真剣に受け止めている」と反応していることだ。これを平たい言葉に言い換えるなら、「やるなら、やってやるぞ」ということになる。だから一触即発なのだ。もっとも米国は国防総省報道官・クックが「北朝鮮が核弾頭を小型化するのを見たことがない」と発言しているが、これは甘いかも知れない。もちろん米大陸に届く大陸間弾道弾に関しては、再突入技術を獲得するに到っていないから、米国へのミサイル攻撃はまだ無理だ。しかし、韓国や日本に届く中距離ミサイル・ノドンなどに登載不可能かと言えば必ずしもそうではあるまい。北の核開発期間は、2006年の最初の実験以来10年間あり、相当進んでいるとみられる。

 低開発国の核兵器開発も、中国の開発の歴史を見れば小型化は一定期間あれば可能であると見るべきだろう。核搭載のノドンは、ソウルはもちろん釜山に到るまで、また東京や大阪にまで到達は可能である。金の得意用語「火の海にしてやる」事が可能となるのだ。したがって、米国はノドンによる攻撃準備が整ったと判断すれば、核基地への先制攻撃も辞さないだろう。そういう事態に陥っているのが実体なのだ。核の傘があることを明示しなければ、韓国のみならず日本まで核武装しかねないからだ。とりわけ金正恩は5月に36年ぶりとなる朝鮮労働党の党大会を控えており、米国に屈しない姿勢を大会前に示しておく必要に駆られる危険がある。ここで重要になるのは中国の態度である。王毅は「中国は隣国として朝鮮半島の安定が根本的に破壊され、中国の安全や利益が理由もなく損なわれるのを座視しない」と発言した。

 「座視しない」とは、第2次朝鮮戦争があり得るということになる。中国は義勇兵を繰り出して米軍を釜山まで追い詰めた。一時は釜山陥落も危惧される情勢となり、韓国政府は日本の山口県に6万人規模の人員を収用できる亡命政府を建設しようとし、日本側に準備要請を行っていたほどだ。しかし、習近平が嫌いに嫌っている金正恩が核を使用するのを食い止める米軍の先制攻撃は、まさに国際正義の遂行であり、「座視しない」と言い切れるかだ。米中が事実上結託して金正恩を暗殺する事態となれば、別だ。その場合金体制は倒しても、労働党政権は維持することを密約しなければ、中国は乗らないだろう。38度線死守は中国の極東戦略の要でもあるからだ。いずれにしても瀬戸際路線を突っ走る金正恩が、“口撃”から踏み出すかどうかを、かたずをのんで見守るしかあるまい。
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