国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-01-27 20:31

近未来の「職」に大きな変化

角田 勝彦  団体役員、元大使
 1月7~8日の当e-論壇への寄稿「波乱の新年を迎えて未来を考える」で、私は「(覇権を巡る国際政治面の動きより)重要なのは先端技術開発を中心とする経済面の動き」であり「我々の次の世代は、(対立する主権国家に縛り付けられることがない)別の世界に生きている可能性があろう」と述べた。 その後、1月のダボス会議などで、思ったより早く先端技術開発により近未来の「職」に大きな変化が訪れる可能性が討議されたこともあり、来たるべき変化への社会の適応準備の重要性、とくに教育・訓練の強化の必要性について、ここに敷衍したい。年初来の株式・為替市場の激しい変動は、北朝鮮の1月6日の核実験や24日の沖縄宜野湾市長選以上に、国民の関心を集めた。日本だけではない。世界的にも原油安や中国経済の低迷は「イスラム国(IS)」や中国の南シナ海岩礁埋め立て問題より大きな関心事になっている。当然であろう。いざという時まで、一般人の関心は衣食住中心に日常生活に向けられている。そして「職」(雇用・自営を含めて就業)は収入確保と生きがいの両面で日常のくらしを左右している。

 近未来予測は、先端技術開発により、その「職」が大変動すると見ている。昨年12月、野村総研は「10~20年以内に日本で働く人の仕事の49%は人工知能(AI)やロボットで代替出来るようになる」、「可能性が高いのは、会計事務員、配達員、警備員などで、約2500万人にのぼる」との分析を発表した。これは中国メディア(騰訊)でも「基本的な教育を受けていない人たちも少なくない中国では、日本よりはるかに多くの人が職を失うことになるかも知れない」と関心を持って報じられた。1月20~23日のダボス会議(世界経済フォーラム)でも同趣旨の報告が討議され、関心を呼んだ。欧米諸国、メキシコ、ブラジルを含む15ヶ国の371の大手企業の幹部への調査に基づく「職の未来(The future of jobs)」に関する報告である。米国の中南米専門家Andres Oppenheimer氏の分析・報告だが、「ロボットによって今後5年間で500万人以上の雇用が失われる」と予測している。

 最も危機的な職業は、販売員、レジ係、行政書士、製造組立ラインの労働者、タクシー運転手である。逆に近い将来成長する雇用は、ロボット及び3Dプリンターのインストール、修理、メンテナンスの仕事、ほぼすべての業界のデータ・アナリストの職等である。また、建築家、エンジニア、コンピューター科学者、数学者の需要も高くなると言う。同報告書は、技術の進歩が約710万の雇用削減に繋がる旨述べている。逆に200万の新しい雇用を創出するので 実質的に510万の雇用の削減になるというのである。もちろん科学技術の進歩は一般に人類に害よりも多く益をもたらしてきた。産業革命が立証したように機械が大量の失業を生むとしたラッダイト(機械打ち壊し)運動は間違いだった。ダボス報告書が検討の対象にした高度なロボット、人工知能、自動運転車、3Dプリンター、遺伝学、バイオテクノロジーなどの新しい技術も多くの益を生むだろう。富の産出は増大しよう。ただし貧富の差は拡大しよう

 また日本の場合、予想される老齢化と労働力減が「職」(雇用・自営を含めて就業)の削減の問題を解決するかも知れない。富の遍在化により「職」の変化に乗り遅れる人々への所得保障が可能な時代が来るかも知れない。しかし職は生きがいでもある。職の喪失や生得格差が不安と不満を生まないようにしなくてはならない。このためにもふさわしい職を万人に確保していかねばならない。安倍総理は1月22日の施政方針演説で「イノベーション型の経済成長」「人工知能、ロボット、IoT、宇宙など次世代を切り開く挑戦的な研究の支援」「大胆な規制改革(オープンイノベーション)」を行い、新しい科学技術基本計画により「日本を世界で最もイノベーションに適した国にしていく」と表明した。一内閣の課題ではないが方向は妥当である。ダボス会議報告は、今日小学校に入る児童の65%は、今日存在しない仕事をすることになるとも予測している。まさにニュールネサンスの大変革である。そのとき国境に閉じ込められているような「職」は影が薄くなっていよう。いずれにせよ、その新しい時代に備えての広義の教育と職業訓練の革新が必要となろう。早めの検討が望ましい。     
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム