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2016-01-12 11:23

「世界争乱」に手詰まりの米外交

鍋嶋 敬三  評論家
 2016年はサウジアラビアによる対イラン断交(1月4日)で明けた。ロシアによるウクライナ侵攻とクリミア武力併合、大量の中東難民の欧州への流入、イスラム国(IS)による紛争地域拡大など、2014年に本格化した「世界同時争乱」(2014年9月8日拙稿「百花斉放」No.3078)が拡散し、そのマグニチュードを高めた。1月6日には北朝鮮が「初の水爆実験」を敢行、中国は南シナ海の埋め立て人工島に航空機による着陸を強行し、軍事的緊張を一層強めた。台湾では16日の選挙で8年ぶりの政権交代が予想され、中台関係に影響を与える。「争乱」の原因は様々だが、底流に共通するのは国際的な難題を解決しようとする米国の強い指導力の欠如である。オバマ外交の手詰まりが目に見える形で現れた。

 北朝鮮は米国との直接交渉を要求して核、ミサイル開発・実験の「瀬戸際政策」を繰り返してきた。これに対し過剰な反応をせず、制裁による圧力をかけるという米国の「戦略的忍耐」の政策は失敗に終わった。クリントン政権の「枠組み合意」(1994年)にもかかわらず、2006年の第1回核爆発以降も実験と制裁のいたちごっこだった。今日、明らかになったことは、「北」の核、ミサイルともに格段の技術的進歩、量的拡大を遂げ、日米韓の同盟国に対する軍事的脅威が確実に増大したことだ。米国はこの間、騙され続けてきたのである。北朝鮮が最も恐れるのは、体制の崩壊につながる中国からの食糧と石油の禁輸である。中国としては、北朝鮮の崩壊の結果、韓国とその同盟国の米国の軍事力が直接国境を接する事態は避けなければならない。北朝鮮への影響力を維持するためにも、国際平和の維持に責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国でありながら、真に強力で効果的な対北制裁措置には反対せざるを得ない。「中国のジレンマ」は解決しないのだ。

 その中国は南シナ海の軍事化のため、着々と既成事実を重ねてきた。ベトナムと係争中のスプラトリー諸島のファイアリークロス礁に1月2日と6日に計3機の民間機が試験飛行した。中国軍関係者は6月までに軍用機の運用を予言している。フィリピンのデルロサリオ外相は中国による南シナ海での防空識別圏(ADIZ)の設定を予測した。一方、海上では主砲の76mm速射砲(通常、軍艦に装備)や対空砲を備える1万2000トンの巨大巡視船が配備された(東シナ海には2015年配備)のは、ADIZ設定をもにらんだ動きであろう。シンガポールの有力紙「ザ・ストレーツ・タイムズ」は1月11日、「中国軍部は平和を推進すべきだ」と題する社説を掲げた。年末に開始された人民解放軍の大規模改革に関連して中国の興隆が、軍部が独走した大日本帝国や英国の帝国主義のような過去を繰り返せば、「歴史的な悲劇」になると警告した。

 中国自身が帝国主義のかつての被害者であり、「経済的な拡大が政治的、戦略的な拡張に結びつかないようにする義務」があると諭している。その中国のテストケースが正に南シナ海であり、中国に国際的規範に基づく協調行動を求めた。オバマ大統領は2月15-16日、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国首脳をカリフォルニア州に招く。環太平洋連携協定(TPP)への参加拡大も含めて、中国をにらんだオバマ外交の柱「アジア・リバランス(再均衡)」の真価が問われる。経済共同体(AEC)が発足したばかりのASEANの一体性が問われる局面でもある。日本の責務はアジア、中東を含めたグローバルな危機に対し、主体性を持って国際社会への働き掛けを強める一方、同盟国の米国と首脳レベルの協議を日常的に行い、米国の指導力回復を側面から支えることである。安倍晋三首相がなぜか肩を入れる「プーチンのロシア」と、同盟国の米国のどちらが日本にとって重要か、自明であろう。国連安全保障理事会の非常任理事国(任期2年)、また先進主要国(G7)サミットの議長国として、日本に課せられた、逃れられない課題である。 
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