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2015-12-12 10:54

(連載2)核廃絶をめざす理想主義(急進派)と現実主義(穏健派)の対立

角田 勝彦  団体役員、元大使
 しかし、核廃絶に関しては理想主義こそ現実主義であるのかも知れない。安全保障に関しては考えられないことを考えねばならないが、とくに核テロを含む核戦争については可能性を見くびってはならない。核テロを含む核戦争が人類の終焉を意味する可能性を無視してはならない。事実上の核保有国はイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮と増え、さらに将来イランへ拡がると見られる。とくに北朝鮮はミサイルを含む核軍拡に狂奔している。ISなどのテロ組織が核を入手する可能性もあり得る。

 理想主義への流れは強まっている。オーストリアが核兵器禁止への努力を誓い、2015年4月開幕のNPT再検討会議に提出した「人道への誓約」文書(事実上、禁止条約制定に向けた議論を求める内容で、核禁止、廃絶のための法的枠組みづくりの必要性を呼び掛け、各国や市民社会と協力すると宣言している)へは、会議前には約70カ国だった賛同国が閉幕時には107カ国まで増えた。なお日本は早急な核廃絶に抵抗する保有国と足並みをそろえて誓約文書に反対する立場をとった。保有国の賛同がない決議は空文に終わると考えたからでもある。ただし被爆国として、非人道性の認識を広める必要性を主張している。また、最終文書案の作成過程で日本が提案した各国首脳らに広島や長崎への訪問を促す記述が中国の要求で削除されたが、幸い、12月核廃絶決議で復活した(ロシアと中国はこの決議にも反対)。

 11月初旬に長崎市で初めて開かれたパグウォッシュ会議も理想主義の一環である。これは1954年に米国によるビキニ環礁の水爆実験で第五福竜丸が被曝した事件を受けて出された55年の「ラッセル・アインシュタイン宣言」に基づき、カナダのパグウォッシュ村で57年に始まった歴史ある会議で、今では自然科学者だけではなく、国際政治学者やNGO関係者も多く加わっている。5日間の会議の最終日に出された「長崎宣言」は「長崎を最後の被爆地に」とのメッセージで始まり、世界の国々と市民社会などが連携して核兵器の法的禁止をめざすよう呼びかけている。核兵器による抑止論の主張もあったが、これを乗り越えた被爆地で受ける印象は重要と感じられる。

 オバマはプラハ演説で「米国は核兵器を使用した唯一の核保有国として、核廃絶に向けて行動する道義的責任がある」と宣言している。安倍首相は4月29日の米議会演説で原爆被爆70年に触れなかった。岸田外相は27日午後、国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説し、「被爆地の思いを胸に、核兵器のない世界に向けた取り組みを前進させる」と述べた。安倍首相が米議会演説で同じ趣旨で広島・長崎に触れてはいけなかった理由はあるまい。遠慮としたら度が過ぎた。オバマはむしろ歓迎しただろう。28日のオバマ大統領との首脳会談のときには「核兵器不拡散条約(NPT)に関する日米共同声明」が発出されているが、もう少し米国に強く働きかける必要があろう。来年の伊勢志摩サミットは逃すべきでない機会である。(おわり)
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