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2015-12-01 06:25

来夏にダブル選がなぜあり得るか

杉浦 正章  政治評論家
 衆院議員の当落を決めるのは簡単な話だ。来年正月になっても夏に衆参ダブル選挙があるのかないのか悩んでいる人が落選。悩まずに「常在戦場。今年はダブル選挙」とばかりに選挙区を駆け回る人が当選の構図だ。これだけ「条件」がそろって見え見えなのに、見える人と見えない人がいるから政治家は優劣がつくのだ。例え駆け回って空振りに終わっても、支持票が増えるのだから損はない。来年は衆参同日選挙のあるなしが政局最大の焦点となる。とりあえずダブルに向けて政治家が走り出すことだけは止められない。政党首脳が、動物勘で発言している場合は注意して耳を傾ける必要がある。自民党幹事長・谷垣禎一が、国対委員長・佐藤勉が、来年夏のダブル選挙に言及したことに関して「決め打ちできるわけではないが色々可能性はある」と述べているのは、首相・安倍晋三の近くにいてその“息遣い”を感じ取っているからであろう。民主党代表・岡田克也が「安倍首相がダブル選挙に打って出るという可能性がないとは言えない。2017年4月の再増税以降は暫く選挙が出来ないと思う」と発言したのは、観察に“読み”を入れているのであろう。

 このような政治上の重要判断を幹部が党内外に発信するのは、戦中の「警戒警報発令」を意味している。爆撃機が頭上に来てからでは遅いのだ。なぜ警報が出されるかと言えば、最大の理由が安倍の政治手法にある。これといった争点もないのに、勝つとみれば選挙後わずか1年で解散するというダイナミックな政治手法である。いわば「安倍流短期解散戦略」である。これまでの首相の手法は、300議席近くも取れば多かれ少なかれこれを“死守”しようとして、解散に踏ん切りがつかず、結局追い込まれるケースが多かった。しかし、安倍の政治戦略はこれとは構造的に異なる。いわば陸上のハードル競技の8.5メーター間隔を4メーター間隔に縮小して、高さも84センチから40センチに下げてしまうようなものだ。小刻み戦略なのである。要するに、ドラえもんのように「何処でも解散ドア」なのである。だから衆院議員で解散は先だなどと考えている者がいれば、落選間違いないのだ。この安倍の従来の首相とは異なる特性に加えて、2018年12月までの衆院議員任期を考慮に入れた場合の解散のチャンスは多くない。間違いなく自民党が議席を減らすのが2017年4月以降の解散・総選挙だ。いうまでもなく「消費税10%」の是非を問われるからだ。公明党が軽減税率にこだわるのは総選挙を意識してのことだろうが、「無駄な抵抗はやめよ」といいたい。軽減税率などあろうとなかろうと、2017年4月以降に解散すれば確実に「増税仕返し」選挙となるのだ。大平正芳が増税解散に大敗したのがいい例だ。

 そこで谷垣や岡田が警鐘を鳴らすのは、「おれが安倍でも解散断行を考える」と判断出来るからだ。まず第一の理由は過去のダブル選挙で自民党は圧勝している。大平正芳のハプニング解散、中曽根康弘の死んだふり解散のいずれもが、自民党に圧勝をもたらした。いずれも中選挙区制におけるダブル選挙だが、小選挙区制においても政権政党にとって「相乗効果」をもたらすことには変わりない。相乗効果とは、同日選の場合衆院で自民党に投票する人は、参院でも「ついでに」自民党に投票する傾向が著しいのだ。その逆もあり得る。とりわけ参院選挙単独のケースは政権選択選挙ではないから、有権者の不満がそのまま反映されて自民投票が伸びないケースが多い。ところが、衆院は政権が代わりうるから投票行動が慎重になる。ダブルが政権に有利なのは、有権者が真剣になって大きな変化を望まず、政権に有利な投票行動をするからだ。こうした相乗効果は先の大阪ダブル選でも遺憾なく発揮されているのはいうまでもない。市長・橋下徹人気が府知事選にも大きく作用している。

 さらに加えて、野党に風が吹く気配がない事も挙げられる。民主党と維新の党が4月か5月頃に一緒になって、例え名前が変わっても、ブームが起きる気配はない。おおさか維新の会も大阪のダブル選で票を伸ばしたのは、「大阪特区」としての事情があるからで、このブームが全国に拡大する可能性は少ない。唯一橋下徹が衆院選に立候補すれば、それなりの話題を呼び議席にも結びつく可能性があるが、これが第3極ブームの再来になって、政界地図を塗り替えることはあるまい。また、共産党が提唱している選挙協力や野党統一候補も、ダブルとなれば選挙区がねじれて困難になる。 想定されるダブル選の日程としては、1月4日に通常国会が召集された場合、5月26、27日の伊勢志摩サミットを経て、6月1日が通常国会閉幕となる。延長しなければ閉会当日の解散が考えられ、参院選との同日選挙は7月10日が取りざたされる。延長があれば、幅にもよるが、7月の下旬から8月にかけてのダブル選が考えられる。いずれにせよ先生が走る「師走」が半年以上続く気ぜわしい年になることは間違いない。来年は解散風が出たり引っ込んだりの年となることは間違いない。
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