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2015-11-27 10:38

(連載3)英中「黄金時代」にどう対処すべきか?

河村 洋  外交評論家
 さらに重大な懸念材料は、CGNが他の多くの中国企業と同様に人民解放軍と緊密な関係にあることである。中国人技術者はハッキングでも従来からのスパイ行為によってでも、機密性の高い先端技術を盗み取ることができる。忘れてはならないことは、プーチン政権の秘密工作員がロンドンのロシア人社会に潜んでアレクサンドル・リトビネンコ氏を殺害したことである。ブラッドウェルとヒンクリー・ポイントの原子力発電所は、次のリトビネンコ事件のために中国人スパイを匿うトロイの木馬にさえなりかねない。中国がBAEシステムズ社からF35戦闘機の情報を盗み出したことはあまりにもよく知られている。それは氷山の一角かも知れず、中国はBAEシステムズからクイーン・エリザベス級空母や多種多様なミサイルなどさらに多くの軍事情報もハッキングしたと疑ってもよい。元MI6高官のインクスター氏は「中国はハード・パワー志向で、躊躇なく国益を押しつけてくるので、イギリスが弱みを見せるとそこにつけ込んでくる」と指摘する。オズボーン財務相とフィリップ・ハモンド外相は「イギリスは背後で中国に影響力を行使してゆく」と主張するが、両閣僚が言うほど事態は容易ではない。

 さらに言えば、この原子力合意は、イギリスが日米およびNATO同盟諸国とともに安全保障情報の漏洩を恐れてトルコと韓国に中国製のHQ9防空ミサイルの輸入を止めるように説得した行為とは矛盾する。また、どうしてイギリスがこれほどの物議を醸しながら中国に原子力発電所の建設を頼み込まねばならないのか?イギリスは科学技術立国であり、英国病の最中にあった時代でさえ国民はそのことに誇りを抱いていた。アスチュート級潜水艦でも証明済みだがイギリスには高い原子力技術がある。政府は自国の企業と契約してイギリス人の技術者を雇う気がないのだろうか?公共投資による雇用創出と経済刺激策には、この方がずっと合理的である。

 我々は、英国内の反対派と共鳴してキャメロン首相とオズボーン財務相にこうした環境及び安全保障上の懸念を述べねばならない。特にオズボーン氏はキャメロン首相後継者の最有力候補であり、2012年5月に行なわれたキャメロン氏とダライ・ラマの会談からイギリスの対中政策を転換させた人物でもある。日米両国はオズボーン氏に対して、トルコと韓国による中国製防空システムの導入に西側諸国がこぞって抗議したような強いメッセージを伝えなければならない。労働党のジェレミー・コービン党首は中国の人権侵害を非難したが、今年5月の総選挙では労働党は従来からの選挙地盤であったスコットランドでSNP(スコットランド国民党)に大敗を喫するなど、壊滅的な打撃を受けた。彼らがキャメロン政権を引き継ぐとは考えにくい。このままではイギリスでの中国の影響力はさらに強まるであろう。

 よって我々は、オズボーン財務相がイギリスと世界の安全保障をどう考えているのか説明を求めねばならない。またEDFを通じたフランスとの関係も問題視すべきである。ヨーロッパへの中国勢力の浸透は非常に深いものだが、核安全保障での人民解放軍の影響は深刻化しないうちに排除ないし最小化されるべきである。最後に、イギリスの政策形成者達が環大西洋圏で自国の地盤沈下がそれほど深刻だと認識しているなら、「その他の世界を代表するのが中国ではなく、日本ではいけないのか」と問いかけたい。究極的に、イギリスと安全保障上の負担を分かち合えるのは日本であって中国ではない。科学技術の分野では日英パートナシップの方が英中パートナシップよりはるかに成果が期待できる。我々はこの原子力合意をもっと警戒すべきである。(おわり)
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