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2015-10-16 05:37

ユネスコへの拠出金は「停止」でなく「削減」を検討せよ

杉浦 正章  政治評論家
 「またも負けたか八連隊、それでは勲章九連隊(くれんたい)」だ。非常任理事国になったというのに、日本の国連外交の失態が続く。朝鮮人労働者の徴用問題も巧みな韓国外交に翻弄されて、譲歩を余儀なくされた。その無念さも消えないうちに、今度は中国が世界記憶遺産に申請した「南京大虐殺の文書」がユネスコの記憶遺産に認められ、中韓両国が仕掛ける「歴史戦」に連敗した。外相・岸田文雄は面目丸つぶれだが、どうも「岸田外交」は人柄と同様で甘いような気がする。文部科学相・馳浩が11月上旬にパリで開かれるユネスコ総会に出席し、記憶遺産制度の改善を求める方向だが、外務省は総力を挙げてバックアップすべきであろう。首相・安倍晋三が「日本として組織的な活動をしなかったのは、反省材料だ。しっかりした検証が必要だ」と述べているのは、情報収集と対応で後れを取った外務省への戒めでもある。いきり立った自民党は「ユネスコへの拠出金を停止しろ」と息巻くが、愚かだ。産経新聞なども「分担金を一切拒否せよ。そうすれば理念的にも資金的にもユネスコの死を意味する」とけしかける。しかし、バカが戦車で走ってはいけない。そんなことでユネスコは死なない。けんかをやるなら勝たなければならないのだ。

 まず分担金を日本がゼロにしたらどうなるかだ。ユネスコ憲章で規定している分担金の項目は「加盟国は、その国の未払分担金の総額が、当該年度及びその直前の暦年度についてその国が支払うべき分担金の総額をこえるときは、総会で投票権を有しない」とある。平たく言えば2年間分担金を支払わなければ、総会での投票権を失うのだ。これはユネスコにおける重要議決マターに日本が参加できないことを意味する。加えて、日本が分担金支払いを停止すれば、喜ぶのは中韓両国だ。喜々として自らの分担金を増額して、日本の穴を埋めるだろう。その結果中韓の国際的な評価を高め、以後歴史戦はユネスコを舞台に中韓の独壇場となる。安倍は「今回なぜ、こういった事態になったのかをしっかり検証し、2年後に備えていくべきだ」と発言している。「2年後」とは、中国が今回提出して認められなかった慰安婦問題で次回決定の2年後に再申請する可能性があるし、韓国も慰安婦証言の2年後の登録を目指し、準備を進めていることを指す。安倍は「2年後には勝たなければならない」と号令をかけているのであり、そのためには自らの手足を縛るような分担金停止などはすべきではない。

 官房副長官になった首相の腹心萩生田光一が10月14日、テレビで「日本はユネスコの最大の財政負担国として、運営にイニシアチブを取れるはずだ」と述べているが、何も「最大の負担国」にこだわる必要は無い。最大の負担国でも、外交がこの体たらくではイニシアチブが取れないから問題なのだ。それよりも官房長官・菅義偉が分担金の「支払い停止か、削減を検討する」と述べているうちの「削減」が最も検討に値するだろう。2014年の日本の分担金は約37億円(11%)で、米国が支払い停止中のため最大となっている。これを大幅に削減すれば、ただでさえ財政逼迫のユネスコの首を絞め続けることが出来る。中国にすり寄り、国連の次期事務総長を狙うユネスコ事務局長・イリナ・ボコバにアッパーカットを食らわし、反省を促す事が可能だ。もちろんユネスコを“経営難”に陥らせたボコバの責任が問われ、事務総長就任の野望はついえ去る。削減ならば日本の発言権は阻害されない。

 とにかく支払い停止で日本の力がゼロになれば、米国もいないユネスコは中国に支配されて、ますますその「政治利用」は活発になるだけだ。それに日本の風潮として「国連理想主義」が横溢しているが、これは学校教育のなせる業でもある。国連ほど政治・外交の陰謀が渦巻く組織はない。ユネスコ憲章前文は「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と理想を高く掲げているが、2国間で激しい論争がある問題で片方の主張に組みするのは、国連機関としての機能を自ら損なうものであることをボコバに知らしめなければなるまい。ボコバのやり口は「人の心に戦争を生んでしまう」のである。
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