国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-09-20 09:41

(連載1)安全保障関連法成立と米中日関係

角田 勝彦  団体役員、元大使
 安全保障関連法は、違憲との批判の中、9月19日未明の参院本会議で自民、公明、元気、次世代、改革の各党などの賛成多数で可決、成立した。行政府の強い意志が野党及び多くの国民の反対を押し切った形であるが、この数の論理の強行は、日本国憲法が大統領制と違い議会の多数派が内閣を形成し政権の座につく議院内閣制をとっている以上、想定内である。だが無理が通っても道理が引っ込む必要はない。三権分立と議会制民主主義から、反対派は、司法に安全保障関連法、とくに集団的自衛権の行使を認める「一括法」の違憲性を訴えたり、国政選挙で政権交代を実現し安全保障関連法を改廃する自由を持っている。実際、安全保障関連法を違憲と見る法律専門家の多さは前例を見ないほどで、提訴及び違憲判決の可能性は少なくない。

 しかし、筆者がここで論じたいのは憲法解釈でなく、「立法事実」の問題である。すなわち政府の言う「安全保障環境の変化」に基づく安全保障関連法の必要性や正当性を裏付ける客観的な事実、根拠の問題である。例えば中東・ホルムズ海峡での機雷除去という想定事例がある。安倍晋三首相も9月14日の参院特別委員会で「該当する場合もありうるが、今の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することは具体的に想定していない」と認めた。すなわち、集団的自衛権の一部容認を認める法律を作ってもなかなか実施されないのである。飾り物である。このために憲法を揺るがし、国論を二分する価値はなかった。
 
 この関連でとくに重要なのは日本の安全保障環境及び米中関係をどう見るかである。朝鮮半島の状況と中国の進出が問題視されているが、自衛でなく他衛を必要とする段階になっているだろうか。北朝鮮の暴発の可能性を否定するものではないが、自衛で措置すべきである。中国については、米中の軍事的対決は予想できない。日本を巻き込む偶発的武力衝突が生じる可能性はあるが、米国とも協力し外交で処理可能だろう。中国は威力外交を再考しつつある。習近平政権の高圧的態度に変更が生まれる可能性がある。主因は経済社会情勢悪化と外交環境の悪化による限界の認識である。9月下旬の習近平国家主席の訪米が一つの転機となるかも知れない。

 習近平国家主席は9月22日から25日まで国家主席就任後初めて公式訪米し、25日にオバマ大統領と会談する。その後ニューヨークに移動して「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継となる新目標を採択する国連サミット、国連総会の一般討論へ出席する(一般討論演説は28日の予定)。他方、安倍晋三首相も訪米し29日国連総会で一般討論演説を行う。安全保障関連法成立の説明を行う予定とされる。米国及び世界の両者への反応には違いが予想される。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム