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2015-09-06 17:16

「21世紀の大量移民」に動揺する西欧諸国

小沢 一彦  桜美林大学教授
 今夏の欧州滞在中、連日のように、中東、アフリカからの数十万の難民移入の報に接してきました。各国からの報道を参考に、第二次世界大戦後以来の「民族大移動」についてまとめてみたいと思います。難民の多くは、中東からはシリア、アフガニスタン、イラク、「クルド」、さらにはアフリカからはソマリアやアルジェリア、エチオピアなどからが、主な難民の出身先です。彼らは、まずは中東、アフリカの内陸部からトルコや北アフリカ北岸に到達し、そこから、ギリシアやイタリアに上陸、または徒歩で移入するのです。そこからルクセンブルグで締結されたEU域内移動の自由を保障する「シェンゲン条約」の有効となるハンガリーまで移動。バルカン半島を北へ遡って、ドイツや北欧を目指すのです。その数たるやEU全体で50万人を優に超える大規模なものです。

 原因の一つは、もちろん中東や北アフリカでの数々の戦争の後遺症で、公衆衛生や教育、飲料水などのインフラも破壊されたままの「未来に希望の持てない破綻国家」からの逃避行です。また、SNSなどのインターネット情報で、こうした受け入れ政策についての情報が、瞬時に仲間に伝わることも、難民の増大に拍車をかけております。ロシアのプーチン大統領は、「欧米による中東政策の大失敗が、その主な原因である」と、自業自得であると非難しております。また、欧米の「対ロシア封じ込め外交」で、EUやNATOを東欧やバルカン半島にまで拡大し続けたツケが、ブーメランのように回ってきているのです。

 難民受け入れ側での対立も先鋭化し、受け入れに熱心なドイツやフランス、オーストリア、スウェーデンなどからも、西欧域内での人口比に応じた受け入れ体制を、早急に確立すべきだと、最も受け入れに消極的なイギリスなどと非難合戦を繰り返しております。「自由、平等、博愛、国境の開放」などを文明的、人道的だと宣言してきた建て前上、いくら「経済難民」と言えども、もはや見殺しにはできないところに西欧のジレンマが存在します。今後は、これら大量の移民に対する仕事や教育、住居、食糧の配給に、莫大な財政措置が必要となってくるはずです。もちろん、西欧の納税者の態度も様々で、文明的、人道的、博愛的に受け入れに熱心な人々と、自分たちの生活水準の低下を是認せざるを得ない「反移民派」との間に、今後大きな亀裂が入ることでしょう。

 加えて経済財政政策以外に大切なことは、これら数十万人の難民の多くが、主にイスラム教徒ということで、キリスト教文明圏で、うまく包摂されるか、はたまた排除されるかという大きな問題が残されているということです。すでに「ネオナチ」などからの、難民に対する妨害いやがらせ活動も強まっています。難民受け入れに厳しい日本にとっても、「21世紀の民族大移動」は他人事ではありません。日本がいかに財政支援だけでも西欧にするのか否かに関して、国際的な注目が集まっています。単純労働者として簡単に受け入れておきながら、経済停滞時や社会保障の破綻懸念などで、後々差別や迫害を加えることのないように、日本はあくまでも慎重な対応を継続すべきでしょう。
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