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2015-08-30 08:17

(連載2)剣が峰のアベノミクス

角田 勝彦  団体役員、元大使
 しかし景気の先行きには暗雲が漂っている。政府は26日発表した8月の月例経済報告で、世界景気の基調判断を3年ぶりに引き下げた。「アジア新興国に弱さがみられる」とし、中国経済の減速が周辺国に波及していると指摘した。日本の基調判断は「緩やかな回復基調」との表現を維持したが、個人消費や輸出の判断を下げ「改善テンポにばらつきもみられる」としている。

 この中で注目されているのが米国経済である。今年1~3月期は寒波の影響などで0・6%増と減速したが、27日米商務省が発表した今年4~6月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)は、専門家の予想(3・2%前後の増加)を上回り、年率換算で前期比3・7%増となった。米連邦準備制度理事会(FRB)が想定する「年内の利上げ」を後押しする内容といえるが、最近の金融市場の混乱もあることから、金融政策を決める9月16、17日の連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げについて慎重に判断するとみられている。

 世界同時株安の流れを受け、経済対策を求める声が与党内でも強まっている。自民党の二階俊博総務会長は25日の記者会見で、災害対策やインフラ整備を進める国土強靱化に「それなりの財政措置をしなければいけない」と述べ、景気を刺激する補正予算の編成を促した。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が失速すれば、最近の内閣支持率低下とあいまって、「来年夏の参院選が厳しい」ためである。黒田日銀総裁は26日の講演で現時点では追加の金融緩和は必要ないとの認識を示したが、自民党内でも「これ以上、金融緩和を進めてハイパーインフレになったらどうするのか」と、アベノミクスの「第一の矢」の金融緩和に疑問の声が上がっている。実は2%のインフレ目標達成は実現しなくてもかまわない。大きな原因とされる原油安は日本に有利なのである。例えば交易損失の減少は昨年10~12月期以降で累計8兆円以上になるとの計算もある。むしろ問題は効果が家計に浸透しないことである。

 他方、9月の政局は波乱含みである。自民党内の7派閥のうち、総裁選への対応が定まっていなかった岸田派と石原派は27日、それぞれの派閥会合で首相支持の方針を決めた。これにより全派閥が首相支持で一致し、首相の無投票での3選が濃厚になった。これは参院で審議中の安全保障関連法案の成立に資するだろう。問題は、野党との修正協議などである。維新の党の混乱がどう響くかは判らないが、「参院の存在意義に関わる」と「60日ルール」を適用しないため与党が目指している9月11日までの成立は審議時間との関係からも困難であろう。国民の反対も強まっている。国会での混乱が予想される。安倍内閣は一強のゆとりを持って、安保関連法案のごり押しを避けつつアベノミクスの金融・財政政策及び生産性向上を目指す成長戦略に力を注ぐことが強く期待される。(おわり)
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