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2015-07-31 16:04

(連載2)試練に直面する日本の対露外交

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 わが国では、プーチン大統領の年内訪日が検討され領土交渉進展が期待されている。それに配慮し、欧米諸国が6月以後対露批判を強めているにもかかわらず、わが国はロシアへの制裁も批判も控え目にしてきた。したがって、なぜいま対日強硬姿勢なのか、との戸惑いの声が政府などからも出ている。「大統領は北方領土問題解決に強い意欲を示しているのに、メドベジェフ首相がそれを阻害する言動を繰り返している」といった報道さえある(朝日新聞 7.24)。しかしこの認識は間違いであり、明らかにプーチンに対する幻想がある。

 4島の発展計画や軍備増強も、プーチンの意に反して首相や国防相が進めることはあり得ず、当然、大統領の指示で推進されている。北方領土問題でも大統領自身が強硬姿勢なのだが、わが国ではほとんど報じられていないので、説明しよう。

 北方4島の帰属(主権)は未定と両国が公式に認めていたのに、平和条約交渉に関連して「4島が露領であるのは第2次大戦の結果だ」と初めて述べたのはプーチンだ(2005.9.27 露国営テレビ)。彼は2012年3月1日に、朝日新聞の若宮啓文主筆に領土問題で「ヒキワケ」と述べ注目された。その時彼は、日ソ共同宣言に従って歯舞、色丹を日本に引き渡しても、「その後それらの島がどちらの国の主権下に置かれるのか、宣言には書いてありませんよ」との強硬発言をしたが(昨年5月24日にも同じ発言をしている)、朝日や他の日本メディアはこの強硬部分を報じなかった。またその時彼は「両国外務省に(交渉)ハジメの指令を出そう」とも述べたが、その後ロシア外務省は日本外務省との領土交渉を事実上拒否してきた。もちろん、反大統領ゆえではなく、彼の指令がないからだ。プーチンが外務省に話し合いをさせようなどと他人事のように言うこと自体、解決の意思がない証拠だ。両外務省は何十年も議論をし尽くしているが決定権はなく、いま残されているのは両国首脳の決断だけだからだ。

 ではこの状況で、日本としてロシアにどう対応すべきか。わが国は北方領土問題に関してしばしばロシアの行動を批判するが、行動が伴わないとか、あるいは前述のように時には逆の行動さえとる。したがって、日本の抗議は「単なる儀式であり、それには死ぬまで付き合いましょう」と、プーチンの右腕イワノフ大統領府長官などにも揶揄される。結局いま問われているのは、今年プーチン大統領を招くのは国家として正しい行動なのか、国家主権の問題でまた誤解を招くことにならないか、ということである。ロシアとの良好な長期的関係の構築は必要だが、それと個々の問題への対応は、はっきり区別すべきだ。(おわり)
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