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2015-07-30 23:59

(連載1)試練に直面する日本の対露外交

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 7月23日の露閣僚会議でメドベジェフ首相が、北方領土訪問の意向と国境防備のための島の軍備強化方針を打ち出し、他の閣僚たちにも訪問を強く誘った。日本に対する挑発的な言動である。この報道に接して、私は3年前の深刻な事態を想起せざるを得なかった。2012年7月28日に、民主党の玄葉光一郎外相とラブロフ外相の会談がロシアで予定されていた。しかし7月3日に突然メドベジェフ首相が国後島を訪問し、しかも日本に対してきわめて侮辱的な政治発言をした。国際的な外交常識から見て当然、日本は外相会談をキャンセルするか延期すべきだった。しかし日本政府は言葉では抗議したが行動では逆に、玄葉外相は予定通り訪露し、しかもプーチン大統領への秋田犬のプレゼントまで持参した。

 これを注視していたのが韓国の李明博大統領だ。韓国の専門家によると、李大統領は領土問題に関し日本は真剣勝負ではないと見て、直後の竹島訪問(8月10日)を決断したという。これが転回点となって、日韓関係が一挙に悪化した。さらに翌9月11日、尖閣諸島が国有化されると、私有地の国有化は主権問題とは無関係にもかかわらず、中国が主権問題だと大騒ぎをし中国各地で反日暴動が荒れた。北方領土問題は主権侵害の問題だが、日本が真剣な対応をしないと、日露の関係のみならず他国との外交、安全保障さらには経済問題にも大きな影響が及ぶという具体例である。

 先日の露閣僚会議では、来年から10年間の新クリル発展計画も採択した。これは軍事と民生を結合した島の総合開発計画で(予算700億ルーブル)、島の人口も25%増の24000人にする計画だ。6月にはショイグ国防相が択捉、国後の軍事拠点建設などの2倍加速を命じ、ロシア国内ではこれは日本の領土返還要求への対応と報じられた。クリル発展計画も軍備強化も、島を日本に返還するつもりはないとの意思表示でもある。

 筆者はロシア屈指の日本専門家と日露関係について3月から5月にかけて往復7回の公開論争を続けた(ロシア語版はカーネギー・モスクワセンター・サイト、日本語版は『アジア時報』7・8月合併号に掲載)。ロシア側の結論は、日本は数十年か無期限、領土問題は一切提起せず、ロシアとの協力関係を推進すべしというものだ。今回のメドベジェフの島訪問に関するロシア側報道でも、「ロシアは島の共同開発を提案しているが、条件は日本側が領土要求を忘れて経済協力に集中すること」としている(『RIAノーボスチ』2015.7.25)。(つづく)
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