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2015-06-23 09:05

日米同盟は国際社会の期待に応えよ

河村  洋  外交評論家
 アメリカの同盟国は全世界に広がっているが、各地での脅威の多様化や各国の政策的優先順位の違いもあり、盟主アメリカと同盟諸国の方針の食い違いが目立つ。イラン核問題ではイスラエルやサウジアラビアに代表される中東諸国は、イランとの交渉妥結を優先するオバマ政権と大きなパーセプション・ギャップを抱えている。アメリカのこうした既定同盟路線からの一方的離脱に対して、ネタニヤフ首相は米連邦議会に乗り込んで、イランの脅威を訴えたが、それはアメリカの外交政策における党派対立を激化させてしまった。他方でイギリスのキャメロン政権は均衡予算を優先させるあまりに国防能力を低下させてしまい、北大西洋で活発化するロシアの海軍および空軍からの自国防衛さえ覚束なくなってしまった。そのためにアメリカばかりでなく、イギリスの他の同盟国からも懸念の声が挙がっている。こうした諸外国の動向は、アジア太平洋地域での最重要同盟国である日本に対してどのような教訓をもたらすだろうか?

 現在、安倍政権は国会で安全保障法案を通過させ、積極的平和主義を強く推し進めようとしている。また、安倍晋三首相の米議会での演説は概ね成功であった。しかし、日本の安全保障の認識と軍事的能力についてはどうだろうか?中東でイランが地域の覇権を目指しているように、極東では中国が地域の覇権を目指している。自国の軍隊の他に、イランがシーア派代理勢力を利用しているのを真似て、中国は漁師を代理勢力に仕立てている。安全保障法案と憲法改正に関する限り、日本国民は「巻き込まれ」を過剰に懸念しているが、日本という国の生存には「見捨てられ」の方がはるかに重大な意味を持つ。たとえ日本が憲法その他の法的制約を超えてアメリカ主導の多国籍軍に積極的に全面協力しようとしても、国力を超えたことまでしてもらおうと、誰が期待するのだろうか?日米同盟あるいは多国間同盟への日本の貢献強化に反対する者は、アメリカ側とのパーセプション・ギャップを埋めて、「見捨てられ」を避けることをもっと真剣に考えるべきである。日本国民にとって最悪のシナリオは、オバマ政権が日本をイスラエルやサウジアラビアのように「見捨てる」ことである。それは私の背筋を凍らせるものである。

 軍事的能力に関しては、国際社会の期待に応えることが重要である。キャメロン政権下のイギリスは国力に見合った国防力の維持をやっていない。日本には脅威が多様化する時代にあって、近隣地域を超えて活動する能力がある。安倍氏が安保法制をめぐる議論で言及したホルムズ海峡は日本の石油需要のために死活的な海路で、緊急時には多国籍軍に参加してここの海上交通を保証することは日本にとって当然の役割である。しかし、安倍氏が日本の関与を1991年の湾岸戦争後に日本が既にやっていた掃海に限定したことは非常に残念であった。現在、湾岸地域の海上で最も深刻な脅威はイランの対艦ミサイルである。イランは当時よりもA2AD能力を強化している。キャリアー・キラー・ミサイルはどのような艦船でも、たとえそれが機雷敷設水域から遠く離れていいようとも撃沈できる。艦隊防空がなければ、エネルギー供給のシーレーン防衛の任務を安全かつ成功裡に行なうことは不可能である。日本には他の参加国と共に多国籍軍の艦隊をイランのミサイル攻撃から守る能力がある。イージス艦は何のためにあるのだろうか。これはSEADあるいはDEADのように敵の基地を無力化したり、あるいは敵の領土に上陸したりといった攻撃的な役割ではなく、全面的に防衛的なものである。艦隊防空であれば、それは日本にできることであり、これぞ過去に日本が成し得た成果から積極的平和主義に向かう真の一歩前進となる。

 安保法案をめぐる永田町での議論では、海外派兵によって戦争で死傷者が出るリスクが過剰に取り上げられている。しかしこの法案で決定的に重要な点は、日本が自国の防衛能力を全面的に活用して国際公益に尽くすことである。これは「積極的平和主義」の中核を成す概念である。ペルシア湾の安全保障は日本一国の狭い国益を超えたものであり、その価値は日本が国際社会に貢献することに付随すると考えられる「リスク」よりもはるかに大きなものである。遺憾なことに安倍政権も野党もこの絶対的に見逃せない論点を忘れ去っている。最後に、指摘したいのは、首脳間の個人的関係を抒情的にとらえ過ぎてはならないということである。キャメロン英首相はオバマ大統領と親密な関係だが、イギリスの対米外交の評価は必ずしも高くはない。逆にホワイトハウスとの関係が良好とは言えないネタニヤフ・イスラエル首相の主張を支持するためには、47人もの上院議員が結集するのである。もちろん、オバマ外交に批判的なロバート・ケーガン氏でさえ述べたように、外国の首脳がアメリカ国内の党派対立に深入りし過ぎることは好ましくないだろう。だがここで問題提起したいのは、日米関係の観測者の間で安倍氏とオバマ氏の個人的関係を抒情的に拡大解釈し過ぎていなかったかという点である。首脳同士の関係を決して軽視するつもりはないが、日米双方のオピニオン・リーダー達はより重要な課題を注視した方が良いと思われる。
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