国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-04-29 13:50

NHKの過剰な謝罪に驚く

中村  仁  元全国紙記者
 NHKは報道番組「クローズアップ現代」のやらせ疑惑を否定しながらも、「過剰な演出はあった」との調査報告書を公表し、28日夜の特別番組で謝罪しました。テレビを見ていまして、いくらなんでもこれは「過剰な謝罪」ではないのかと思いました。むしろばか丁寧さを印象づけることで、「政治が騒いでいるのでしょうがないのだ」を言外にいっているようでしたね。同じ日にテレビ朝日も、元経産省官僚だった古賀氏が番組中、逸脱した発言を続けた問題で、会長以下の処分を発表しました。NHKもテレ朝も、これらの問題で自民党調査会の意見聴取に呼ばれ、経緯をただされました。政権に理解のあるはずの読売新聞も社説で「行き過ぎ。与党として不適切な振る舞い」(4月18日)と批判するほどでした。こうした動きの根拠は、許認可権を握っている放送法にあります。政権党は報道内容に介入できるのでしょうか。ジャーナリストの池上彰氏は「自民党こそ放送法違反だ」とかみついています。放送法には「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉されることはない」とあります。政党にはそんな権限はなく、権限は政府(所轄官庁)にあります。元NHK記者だった池上氏ならではの指摘です。

 問題の番組は、調査報告書にあるように、「取材、撮影手法に不適切な点があった」、「決定的なシーンを撮ったように印象づけることが優先された」の指摘が正しいとすれば、謝罪は当然です。週刊誌が報じたような「事実の捏造」はなかっとしても、真実の正確な報道が求められるメディアとしても、十分に反省しなければなりません。問題は異様な謝罪ぶりです。調査委員長の副会長は「誠に遺憾。再発防止に務める」と述べ、何十秒か深々と頭を下げました。検証番組では、これとは別に報道局長が出てきて「反省しています」と、これまた頭を下げました。もう1人は番組責任者の国谷裕子キャスターで、これまた別に、「報道の信頼性を裏切ることになり、申し訳ありませんでした」と。1人か2人ならともかく、3人が別々に登場し、謝罪する様子を見ていまして、「何か裏があるのだろうか」と、思った人は私ばかりでないでしょうね。

 この「やらせ疑惑」そのものより、政治権力はこれを機会に、報道機関に圧力をかけておこう、そうすれば政権批判の報道は自粛するだろう、という意図を持っていると推測されても、おかしくありません。NHKはひしひしとそれを感じ取り、「とにかく大げさでもいいから謝罪しておこう」と考えたとしても不思議ではありません。今後、さらに政権報道には慎重に取り組もうと認識していることでしょう。安倍政権は歴代政権と比べ、メディアの報道ぶりに過敏ともいえる反応を示してきました。

 日本のメディアに対してばかりではありません。ドイツ紙の東京特派員が「自分の記事(歴史修正主義の指摘)に不満の外務省が、地元総領事を本社に差し向け編集幹部に抗議した」ことを明らかにしています。米国紙の特派員も慰安婦報道で、「在米日本大使館から圧力めいたメールをもらった」と、書いています。外交問題、政権批判には、誤解もありがちだし、書かれた側には「そうではないよ」という不満もあるでしょう。そういう場合は、政府は投書とか記者説明など公開の場で、堂々と反論か指摘をすればよいのです。本社に乗り込むとか、メールで指摘するから問題がこじれてくるのです。とにかく出先の外務官僚が、官邸か本省の意向を受けているか、安倍政権になってそうした行動をとりやすくなったと、考えているのでしょう。日米首脳会談で、両国は民主主義の価値観を共有していることを確認しました。政治権力がメディアに直接、間接の圧力をかけるようでは、あるいは報道の自粛をもたらすようでは、民主主義が泣くことをお忘れなく。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム