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2015-04-16 07:01

自民は「事情聴取」を「準検閲」と受け取られないように

杉浦 正章  政治評論家
 言論の自由との関連で「危うい」が、この際テレ朝とNHKのひどすぎる「偏向報道」にはクギを刺しておくべきであろう。とりわけ保革激突の「安保法制」を前に、政府・与党が公平なる報道を求めるのは妥当だ。ただし、4月17日に自民党が行う「事情聴取」はこれまでと異なり「特定の報道」を取り上げており、これはリベラル派から憲法21条2項の検閲禁止に抵触しかねないと誤解される側面がある。政権政党というのは、政治権力の行使に禁欲的でなければならない。すぐに多数党の横暴と受け取られるからだ。したがって「にっくきNHKとテレ朝」をけん制するのは良いが、「番組打ち切り」などにまで追い込んではいけない。「寸止め」が適切だ。

 自民党が取り上げるのはNHKの調査報道「クローズアップ現代」とテレ朝の3月27日の「報道ステーション」の「自爆電波ジャック」問題だ。「クローズアップ現代」は昨年5月放送の「追跡:\"出家詐欺\"、狙われる宗教法人」である。筆者も見てわざとらしく、すぐにやらせではないかと気付いた。隣のビルから窓越しにブローカーと多重債務者の相談した一室を、さもドキュメント風であるかのごとく撮影しており、いかにも出来すぎだったからだ。実はその場にNHKの記者がいて、やらせ発言を演出していたのだ。NHKもほぼこれを認め、キャスター国谷裕子が謝罪している。自民党の狙いはこの国谷の反自民の「偏向」をけん制するところにある。筆者も気付いていたが国谷は常に「反自民」の姿勢を維持しており、とりわけ安倍政権になってからその傾向を強めている。昨年7月1日に集団的自衛権の行使容認をめぐる閣議決定が行なわれた直後のインタビューでは、明らかに反対の立場から官房長官・菅義偉をつるし上げるような質問を繰り返していた。

 もっとも「クローズアップ現代」の調査報道に関しては、他の民放の追随を許さない鋭い切れ味があり、社会問題への切り込みも深い。繁栄する日本社会の影の部分への浮き彫りが、母子家庭の問題など一つをとっても見事である。いけないのは、その評価を背景に政治への浅薄なる「介入」を見せるケースがままあることだ。これは放送法4条4項の「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に抵触する恐れがある。NHKでは早くも自民党に恐れをなして、幹部の間で「番組打ち切り」が取りざたされていると言うが、自民党はそこまで追い込んではなるまい。「国谷更迭」までで十分だろう。先にも指摘したが、NHKは放送法を意識してか、異なった意見を並列するケースが多くなったが、問題は原発にせよ、集団的自衛権にせよ、巧みにカムフラージュしながらも、本質は反対と受け取れるニュース構成や解説をすることだ。視聴者をこうかつに反対へと誘い込む頭脳的な報道だ。

 一方で「報道ステーション」は、昔から自民党とは犬猿の仲だ。コメンテーターは朝日の論説委員だから当然その社説を反映したものとなる。翌日の社説をそのままなぞって発言しているケースもままある。自民党の取り上げる古賀茂明の「電波ジャック」の内容は、録画してあるが、「緊迫するイエメン情勢」の冒頭で古賀が突然「私事」を語り始めたのだ。番組から干される恨み節を、電波の視聴者の同情を狙って、うじうじと打ち明け話をし始めた。古賀は「テレビ朝日の会長のご意向でこの番組で最後と言うことになった。これまで非常に多くの方々から激励を受ける一方で、菅官房長官など官邸からものすごいバッシングを受けてきた」などと恨み節を述べた。古賀は、キャスター古館伊知郎が「私は何も出来なかった申し訳ない」と陳謝した内幕まで暴露、しまいには「発言は録音してある。全部出す」とまで述べた。これに古館も「こちらも出す」と応じて、視聴者そっちのけのバトルを演じた。電波の私的な使用に他ならない。このバトルは言ってみれば、「反安倍陣営」の急先鋒二人による、「内紛」であり、驚異的な高支持率を維持し続ける安倍政権を前に、反対勢力の自滅を象徴するものである。

 自民党の狙いは、テレ朝の場合も番組けん制にあることは言うまでもない。しかし、自民党が気付かねばならないのは、こうした反自民キャンペーンがあっても、3度の国政選挙と都知事選、統一地方選で圧勝し続けていることである。要するに、NHKも報道ステーションも、反安倍キャンペーンは「ぬかに釘」であることだ。これは言うまでもなく、アベノミクスの成功と、緊迫する極東情勢下で安倍の姿勢が国民の支持を受けていることを物語る。したがって、ゆめゆめ「準検閲」などと受け取られかねない対応はとるべきではない。朝日などリベラル派マスコミが手ぐすねを引いて、反撃のチャンスをうかがっていることを知るべきだ。「事情聴取」は「危うい」が故に、細心の注意を以て臨むべきであろう。
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